クレイモア吸血鬼の旅行記103 ノヴィスワールド-虚構の魔女 前編-

elonaプレイ日記踊れ月光『アネモネ』



アネモネ「月の門の境界にて、永遠を生きる7人の魔女がいるという…」

マリー「ムーンゲートの境界…?魔女?」
唐突にそう語り出した吸血鬼の言葉を聞きながら、マリーは興じているチェス盤を見つめる。しばし悩んだ後、駒を動かす。そして、アネモネは間を置かず次の駒を動かし。話の続きをする。

アネモネ「”葬列”は世界の安定を求め、”暴食”は迷宮にして血と肉に溺れ、”虚構”は毒を纏い現実にその根を下ろす。”深海”は楽園で眠り、”殉教”は失われた刻で汝に問いかけ、”傀儡”は約定に縋り想い人を待ち焦がれる。而して、形無く門を漂い世界を渡り歩く獣在り。その魔女、蒙昧白痴にして全てを喰らいあらゆる運命を無に帰するもの為り。…少し前にそなたと遊びに行った奈落の城《魔導》で拾った書物にそう記述されているものがあってな。興味深くないか?」

マリー「確かに…そうだな。…書物というのはそこに置いているものか?」
再び熟考してから、駒を置くマリー。だが、アネモネはそこに置くのをわかっていたかのように、すぐに駒を動かす。

アネモネ「ぬ?これは《エルトダウン・シャーズ》《忘却の書》《エイボンの書》だ。先ほど話した魔女の1人、葬列の魔女アルハザードに回収を頼まれていたのだが…そういえば、まだ渡してなかった、と。ふと気付いたのだ」

マリー「…つまり。私とのチェスは集中できないほど、退屈だと言いたいのか。お前」

アネモネ「わかりやすい手ばかりするからな。戦略を練らずに突撃しても平気なのはそなたぐらいだぞ」

マリー「適材適所という言葉があるだろう。今も昔も、作戦はお前に任せれば安心さ」

アネモネ「そうだ、準備は終わった。我に任せるがよい。行くぞ」

マリー「どこに?」


草木をかき分け、荒れた道を進む吸血鬼たち。ここは以前、金髪透け透けナースが居た廃村だ。

エリザ「急にここに行きたいなんて…どうしましたの?」

アネモネ「魔女に会いたいと思ってな。集めた情報によれば、この廃村に”居る”らしい」

エリザ「は…?魔女?…まあ、いいですわよ。あなたのおかしな行動には慣れていますから」
そう会話する一行の行き先に、墓の前に立つ少女の姿があった。こちらに気付いていないのか。手を組み、祈っている様子だ。

ドラクル「ただの人間のようですが…魔女と縁があるみたいですね」

ジル「それはちょうどいいですね!知ってることをぜ~んぶ吐かせてやりましょう」

マリー「穏便に頼む…」

アネモネ「ははは。こういうことは適材である我に任せるがよい」
キザったらしい動作で吸血鬼は墓前の少女に近寄る。あえて存在を気づかせるように足音を立て、少女の視界に入る横に立ち、声をかける。

アネモネ「美しいお嬢さん。祈りの邪魔をして、すまないと思うが…」
???「彼女を、探しに来たのでしょう。…少し会話が聞こえていたので。ただの好奇心なら、ここで帰った方が身のためですよ」

アネモネ「残念ながら、我は並の好奇心ではないのでな。それにここからでも感じる、ただならぬ気配には既に気付いておるわ」
???「…いいでしょう。言っても、聞き分けてはくれなそうですし…。近くにある、私の家までご案内します。…此処ではきっと”あの子”に話を聴かれてしまうでしょうから」


墓前の少女はクイナと名乗り。廃村となった生まれ故郷の過去、そして…大切な友達であるエリンに起こった不幸を語り出した。
クイナ「…外を駆け回るのが大好きで、いつも屈託なく笑っている…彼女はそんな女の子でした。物心ついた時から、ずっと私の遊び相手をしてくれた友達で…あの日も、沼向こうの林に花を摘みに行くんだと、そう言っていたのに…。結局、その言葉を最後に彼女が村へ戻ってくることは2度と無かったけれど…。村から1人の女の子が消えて…けれど大人たちは、決してエリンを探しに行こうとはしませんでした。ただ、沼地への立ち入りは固く禁じられ。彼らはまるで何事もなかったかのように振る舞うのです」

エリザ「そんな…どうして?」
クイナ「エリンは特別な力を持っていたんです。村で起こる出来事を次々と言い当てて…それで、次第にみんな恐れるようになって……ここは小さな村でした。村の人たちは、みんな素朴で、凡庸で…だからこそ、理解が及ばないものに対してどこまでも冷徹に、残酷に振舞えた…。多分、理由なんて何でも良かったんですよ…。最初から”エリンなんていなかった”ことにしたかった。そう、そんなものに意味はなかった…」
感情を抑えるように淡々と彼女は話を続ける。いや、話さずにいられないのか。1人で抱えるにもあまりにも重く、恐ろしい出来事を。
クイナ「彼女が消えた沼の奥底から猛毒の霧が湧き出し、村を蝕み始めたのも丁度その頃です。…どんな治療薬も効果がなく、原因を探ろうにも恐ろしい魔物に行く手を阻まれ、満足に沼地を進むことすら出来なかった…。村の住民は次々と毒に侵され、生き延びた人たちも村を捨て…気付けばこの場所には、私1人だけが残されていました。…私はここで待っているんです。何時か私にも死が訪れ、この村が真の意味で滅びを迎える最後の日を…。それが私たちに課せられた罰だから。あの子を見捨てた私たちの、決して償うことの出来ない罪だから…」

アネモネ「…事情はわかった。それでは、我らは沼地の先に向かうぞ」
クイナ「わ、私の話を聞きましたよね…本気、ですか?」

アネモネ「行かなければ、何もわからないままだ。我はそういう曖昧は嫌いだ。だから何と言われようが、先に進むぞ」
クイナ「…行かなければ……。私、本当は知りたいのです。沼の向こうで何があったのか…エリンは生きているのか…。お願いします。私を連れて行っては貰えないでしょうか」

アネモネ「よい心意気である。報酬はそなたのパンティーで良いぞ」
クイナ「え…!?私の…ど、どうしてもというなら」

エリザ「あなた…?」

アネモネ「冗談だ冗談。場が和んだであろう~」

エリザ「もう。あなたというひとは…空気も私も冷え冷えですわよ?」

 

魔女戦後の話になるが、クイナの好感が友達になると…調べていた事とはいえ、普通に驚いたわ。


本来は狩猟と収穫によって生計を立てる争いとは無縁の土地だったのだろう。…しかし、路傍に広がるその廃墟には、今や腐り落ちた田畑と獣の屍骸しか転がっていない。平原を埋め尽くす暮石の群れ…。死の風が吹き荒れる丘陵の奥には、霧に煙る湿地帯の水面がさざめき立っている…。
「…魔女だ。この村から北に進んだ沼地の奥には、恐ろしい魔女が住んでいるんだ。こんな筈じゃなかったんだ…こんな筈じゃ…」
「その子は自分には沼地の精が見えていて、彼らとおしゃべりしているのだと言う…。皆、初めは彼女の正気を疑ったよ。女の子は早くに両親を亡くしていて、寂しさの余り有もしない幻覚を見ているのだと、そう考えた。だがね…その内気づいてしまったんだ。少女が語る”妄想”が全て現実のものになることに。彼女が寿命だと言えばその花はしおれ、嵐が来ると言えば風と土砂崩れによって家が沈んだ。100年の間、渇くことなかった村の泉は、彼女の預言に従って嘘のように枯れ果てた…。
 少女は無邪気に笑うんだ。全部沼地の精が教えてくれたことなのだと言って…。皆が彼女を恐れたよ。女の子にしてみれば、ただ自分の友人たちを自慢したかっただけなのだろう。だが、それでも彼女は魔女だった…。村に災いをもたらす者として、気づいた時には少女と話す者は誰も居なくなっていたんだ…」

「行方不明になった娘は…。随分とひどい扱いを受けていたらしいな。噂では元々王都から越してこの村に移住してきた家族だったのだそうだ。両親が死んだ理由も、余所者として扱われ、この村に馴染み切れなかったことに遠因があるとか…。山間で遭難した彼らを探しに行こうとする大人たちは誰も居なかったと…村の医者が語っていたよ」
「あの子が…沼の向こうから、あの子がずっとわたしを見ているの。いや…いやあああああっ!!ごめんなさい!ごめんなさい!もうひどいことしたりしないから!怒らせてしまったのなら謝るから!だからお願いよ!もう私を苦しめないで!こっちに来ないで!」
煩わしい風のように聞こえる亡霊たちの囁き。ある者は魔女への後悔を語り、ある者は魔女への恨みを吐き捨てる。呪いによって、この地に縛られているのだろうか…?
クイナ「…先を急ぎましょう、冒険者さん」

アネモネ「…」
憤りを感じたが。悲しげに目を伏せるクイナの姿に、ふらりとやってきた冒険者である身に、あれこれ言う資格はないだろうと思い。吸血鬼は無言で歩を進めることにした。



エリザ「泥で濁った水と思うには…完全に紫色ですわね」
青ざめた少女の目の前に広がるのは毒の沼地であった。腐った動植物の一部が水面から現れ、息をするのをためらうほどの淀んだ悪臭が漂っている。

マリー「濃い霧だな。嫌な感じがする…これにも毒が含まれているのか?クイナさんが事前に解毒薬を飲んで、マスクするように言ってくれて助かったな。流石に体調を崩したかもしれない」
クイナ「暇つぶしに、薬師の真似事で作ったものなので…どこまで私の薬が効くのかわかりません。毒はゆっくりと、病のように身体を蝕むものですから。…もう一度言います。引き返すなら、まだ影響が薄い内に」

アネモネ「問題ない。そなたはずっとこの沼地近くで生きていた。生きているのだ。我らは無事に真相へ向かえるだろう」
クイナ「…ありがとうございます」


湿地帯を進む吸血鬼たちの前に、光を纏った美しい妖精たちが姿を現す。彼らは舞いを踊るように花畑を飛び回り、鈴の鳴る声で囁いた。
『立ち去りなさい…。立ち去りなさい…。ここから先に進んではいけない。何故、ワタシたちをそっとしておいてくれないのですか?神樹も、彼女も…誰かに平穏を乱されることなんて望んでいないのに…彼らは報いを受けたのです。報いを受けるべきだったのです。これは定められた自然の意思…。何者も逆らうことは許されない。彼らは罪を犯したのだから。可哀想な女の子…可哀想な女の子』
クイナ「待って…!あなたたちなら知っているでしょう!?エリンは…エリンは無事なの?一体、あの日、この沼地で何が起こったの!?」
『立ち去りなさい…。立ち去りなさい…』
妖精たちは同じ顔で作り物めいた笑顔を張りつかせ。警告を繰り返しながら、姿を消した。

ジル「なんですかアレ…気味が悪いんですけど」
クイナ「…エリンはよく言っていたんです。沼地の木々には意思があり、奥には村を守ってくれる神樹があって。自分はその神樹の使いと話ができると。きっとあの妖精たちは、彼女が言っていた”友達”なんでしょう」

ジル「アレが妖精に見えたんですか?」
クイナ「え…?」

アネモネ「愛らしい姿に油断するな、ということだ。あの妖精は恐ろしいほどの殺意を我らに向けていた」
クイナ「…」
そう言われて墓前の少女は気付く。先ほどの妖精たちから、毒沼と同じ醜悪な臭いが漂っていたことに…。

 

木の洞が作った巨大なトンネルを潜り抜けた瞬間、吸血鬼たちの視界をセピア色の光が包み込んだ。

ガラスのように硬質化していく地面…。魔力で形成された、巨大なスクリーンが足元に広がる。これは恐らく、この場所で実際に起こった過去の光景だ。目の前を、まだあどけない面影の少女が走り抜けてゆく…。
エリンの幻影「嫌…信じて…!魔女なんかじゃない…私は魔女なんかじゃないのに…!」
怯えた表情を浮かべる少女を取り囲み、男たちが鬼のような形相で剣を構えていた。…辺り一面に鮮血が広がっている…。脚を深く斬りつけられた少女が、泣き叫びながら「たすけて」「たすけて」と必死に懇願を繰り返した。同じ悲鳴。同じ問答。同じ訴え。…それでも、男達は剣を振るうことをやめようとしない。一言も言葉を発さず、濁った瞳で少女の腹部に幾度も刃を突き立てている。
エリンの幻影「いや…だ…。たす…けて…。だれか、たすけて…。たすけてよぉ…」

クイナ「あ、ああ…こんな…こんなことって…」
搾り出すように呟きながら、クイナは顔面を蒼白にしたまま自身の肩を抱きしめた。

アネモネ(許しがたいことだ。だが、もういない。復讐は果たされたのだ。…しかし、全てを覆うように蔓延する毒は…いまだに怯えて、身を守っているかのようだ)

 

嵐のように吹き荒れる毒の霧を抜けると、そこには浄化された空気と瑞々しい緑が広がっていた。空から差し込む白い木漏れ日…。林の中央には雄大な老樹がどっしりとその根を降ろしている。此岸と彼岸…。苔の生えた巨木の枝にもたれかかるように、純白の法衣を身に纏った魔女の姿が其処に在った…。

エリン「沼の神樹が怒っています…。これ以上、聖域を土足で踏み荒らすようなら、例え私でも庇いきれません…」
クイナ「エリン…!エリンなのね?聞いて…!もうあなたはこんな所に居なくていいの…。お願いだから帰ろう…。私と一緒に、帰ろう?」
エリン「………」
クイナ「…私、何も知らなかった…。あなたがあんな辛い目に遭っていたなんて…。気付きもしないで、あなたを待っていることしか出来なかった…。虫が良いのは分かっている…だけど、私はまた昔のようにあなたと————…」
エリン「…何か勘違いをされているようですね。私は別にあなた達を憎んでなどいませんよ。人間の少女であった『エリン』は、あの時1度死にました。私が何故、こうして生き残ることができたかご存知ですか?そう…この神樹が、私に力を貸し与えてくれたのです。彼は妖精と友達になった私を哀れんでくれた。同族に云われのない理由で刃を向けられ、あまつさえ殺されかけたこの私…」
愛しげに太い幹を撫でるエリン。その姿は己のすべてを理解してくれる親に甘える子供のようだ。
エリン「同時に彼は失望したのです。異端を排斥し、他者を憎むことしか出来ない人間に。だから滅ぼすことを決めた…。遅かれ早かれ、あの村は裁きを受けたでしょう。今ここにいるのは、神樹の意思を伝える沼の巫女…。クイナ、あなたが以前親しくしていたという、人間の少女はもう何処にも居ないのです」
クイナ「エリン…」
エリン「————…その名で呼ぶなと言っているでしょう…」
エリンの振るう腕に合わせて、老樹がめきめきと幹を軋ませ、その技を幾重にも絡めた長大な槍を形成する。沼全体が震えるように沸き立ち、林の木々も一斉に吸血鬼たちを囲い、ざわめき始めた。
エリン「ずっと待っていたのに…。あの時、何度も名前を呼んだのに…!そんな奴らまで引き連れて今更、のこのこやってくるなんて…」
クイナ「違うの…!この人たちは、ただ私の事を心配して…」
エリン「あなたも私を殺しに来たの?…私は教えてあげただけなのに…。妖精のお告げをあらかじめ伝えて、皆を守ろうとしただけなのに!あなたまで私を”魔女”呼ばわりするのね…!」

アネモネ「…1人で騒がしい娘だ。せっかく会いに来た友に、随分と冷たいじゃないか」
エリン「ああ…やはり人間は下らない…。クイナですらあいつらと変わらなかった…。神樹の言う通り根絶やしにするべきだったんだ…。村だけで済ませるなんて甘かった…。人間なんて、この世界から消えて無くなるべきなんだ…!」
クイナ「お願い、話を聞いて…エリン!あなたは————…」
エリン「…目障りなのよ。何もかも。心配するのは口先だけで、誰も私に優しくしてくれない。唯一私に寄り添ってくれたのは、この木だけ。それが真実で、そして全て…。裏切り者は許さない…。そこに居る冒険者共々、私が首の根を引きずり出してあげる…!」
クイナの隣に立つアネモネを串刺しにしようと襲いかかるエリン。だが、銃声が響き。その純白の衣は真っ赤に染まった。

 


エリン「…いた、い…痛い…痛いぃ…。嫌だ…。なんで…なんでみんな、わたしに酷いことばかりするの…。死にたくない…死にたくないよぉ…」

アネモネ「先に仕掛けたのは貴様であろう。…いい加減、己の言葉として。クイナと話したらどうだ」
エリン「この…ひとごろし……話なんて出来るわけ……神樹よ、お願い」
冷酷に銃口を向ける吸血鬼から逃げるように、大量の血を流しながらエリンは這うように大樹へと近づく。少女が樹の幹に向かって手を伸ばしても、老樹はいつまでも沈黙を保っている。枝からは少しずつ葉が落ち、張り巡らされた根から徐々に生気が失われていく。…沼地の主は、緩やかにその命を散らそうとしていた…。
エリン「な、なんで…。どうして…?お願い、神樹…私に答えて…。もう一度私を助けて…助けてよぉ…」
目を見開き、エリンは湖面に散っていく葉をどうにかしてかき集めようともがき始めた。”どうして…どうして…”うわ言のように繰り返される言葉が偽りの聖域に反響する…。
クイナ「聞いて、エリン…。私はあなたに真実を語らなければいけない。本当は黙っていようと思ってた…。だけど、あなたはこの虚構から抜け出さなくちゃいけない…。いつまでも、こんな沼地の奥に独りで居たら駄目だよ…」
エリン「きょ、こう————…?」
ぞわり、と鳥肌が立った。これから告げられる言葉の意味を決して理解してはいけないと…。全てが壊れてしまう。それを認めてしまったら、きっと自分は…。だけど、ああ…。もしかしたら、本当は、もうずっと昔から…。
クイナ「あなたを助けてくれる”救い主”は何処にも居ない…。居る筈がないの…。だってこの村に、『神樹』なんてものは存在しないんだから」
エリン(————やめて…)
クイナ「あれから私は、何度も調べたわ。もしかしたら、あなたを取り戻す手掛かりになるんじゃないかって…。だけど、無いの。この村の沼地に聖なる樹があったなんて記述は、何処にも無かった…。あなたがお母さんから聞いたという村の言い伝えは、昔から此処に暮らす私たちには一切覚えのない、ただの作り話だった…泣いているあなたを励ますための、他愛のない作り話だったの。初めから…此処にはあなたしか居なかったのよ…」

アネモネ(やはり、か…)
一目見た時から、吸血鬼は分かってしまった。彼女は妖精とまったく同じの、禍々しい魔力を持ち。語りかけていた大木はただの木である事実に。
エリン「…うそ…」
思わずそう呟きながら、エリンの脳裏に封印していた記憶が蘇る…。


幼いエリン「ねぇ、森の精さん?最近ね、村のみんなが私に話しかけてくれないの」
独りぼっちのエリンに”友達”の妖精は無邪気にこう答えた。
『村で何か良くない事が起こったとき、君がその力を使って、みんなを守ってあげればいいんだよ!』
幼いエリン「そっか、そうなんだね!…どうしてこんな簡単なことに気付かなかったんだろう?早く、早く何か起きないかな…。困っている皆を助けてあげれば、誰も私の言葉を無視できない。そうすればきっと、村の人たちも振り向いてくれる。お父さんたちが居なくても寂しくない!そうすればきっと————…」

エリン(わたし———…。そう…だったんだ…。私は、本物の魔女だったのね…)
涙と一緒に、不思議と笑いが込み上げてきた。
エリン「ううん、本当は全部知っていたんだ…。森の精と話しているときも、老樹と心を通わせていたときも、私はただ自分自身と対話しているだけだった。道を選んだのは全部、私…。村に災いをもたらしたのも、刃を向けてきた男たちを返り討ちにしたのも、全部…。”神樹”に怒りを代弁させることで、私は自分が世界の異物だと認めずに生きていこうとした」
…だけどね、本当に欲しいものなんて、結局、何ひとつ手に入らなかったんだ。お父さんとお母さんは帰ってこなかった。クイナと遊ぶことも二度と出来なかった。誰も私を抱きしめてはくれなかった…。———私は、人間でいたかったのに…。


偽っていた人間の殻が壊れ、絶望から生まれたのは強大でグロテクスな魔女の姿であった。クイナは怯えながら、エリンの名を呼ぶが。返ってきたのは鋭く尖った枝木だ。寸でのところで、吸血鬼はクイナを抱き、攻撃を回避する。そのまま跳躍し。なるべく異形化したエリンから離れた場所にクイナを降ろした。
クイナ「一体何が…もしかして、私のせい…?」

アネモネ「うむ…少々我を忘れているというやつだな」

エリザ「それで説明がつかないと思うのですけど…」

ドラクル「エリザさん。昔から強大な魔力を持つ者は第二形態がある。というお約束があるのですよ」

エリザ「お約束…??」

ジル「とにかく殴ればいいでしょう!マスターに殺意を向けるなら、僕はビリビリの焦げカスにしてやるだけですです!」

マリー「…クイナさん。私たちは全力で彼女と戦わなければいけないだろう。それは」

アネモネ「まったくそうだな。また殴って正気に戻してやろう。あんな状態では聞く耳すらないだからな」
クイナ「……お願いします。私、まだ言えてないことがあるんです…!」

アネモネ「そうだ、まだ伝えられるはずだ…。さあ、ここで我と素晴らしい下僕共、そして我が友を信じ、待つがよい!はははははは!」
すべてを飲み込もうとする深い絶望を吹き飛ばすように吸血鬼は笑い。武器を構えた。

 

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