ルシアン「…それじゃあ。PTを抜けるけど…すこーし親父の様子を見るだけで、すぐ戻るから。いや…阿呆なほど頑丈な親父なら、もうケロッと回復しているんじゃないかな~。だから、別に行く必要なんて」
アドニス「…ルシアン。行くんだ」
真っ直ぐと見る金の瞳。短い言葉ながら、有無を言わせない威圧感があった。
ルシアン「はは…そう、睨むなよ。わかったよ。ちゃんと行くさ」
アドニス「そうしてくれ。しばらくウザイやつがいなくなって助かる」
ルシアン「ええ~。そんなこと言って、俺がいないと寂しいだろ~」
アドニス「ぬぐぅっ!?」
顔面に迫る2つの丸い膨らみ。抱きしめてきたルシアンの豊満な胸だ。圧迫…そして羞恥にアドニスはもがく。だが、筋力140の腕から逃れる力など無く。アドニスはルシアンが満足するまで、抱擁された。
ルシアン「…ふぅ。じゃあ、行ってくるわ。ジル、移動お願いするぜ~」
ジル「良かったですねぇ。マスターの命令が無かったら、とっくに帰るところでしたよ」
皮肉ではない本音を言いつつ、赤髪の魔術師は転移魔法を唱え。ルシアンと共に消えていった。先まで騒がしかった一室は驚くほど静まり返り…本当にルシアンは去ってしまったんだと実感を覚えた。
アドニス「…」
ベアトリクス「私たちが出来るのは無事を祈るだけだね。でも、案外。ルシアンくんが言うとおり、お父さん元気だったりしてね」
デイビッド「そうかもしれませんね。あのアニキの親父さんですから!」
ミア「うーん。アンちゃんみたいな、うるさいイメージしか浮かばないですけど…どんなひとなんでしょうね?」
アドニス「優しいひとだよ。よく遊んでくれて…父上と仲良くて。きっと、大丈夫さ。……皆、ネフィア攻略で疲れただろう。今日はもう休もう」
水音が反響する鍾乳洞。さらさらと流れる川に釣り糸を垂らし。少年はぼんやりと考え事をしていた。
アドニス(…帰りを待つべきなんだろうか)
ノースポイントの悪夢の戦場を攻略し。次は鋼の森か、あるいはレシマス最奥に潜むボスに挑むところだ。ここまで進めたのはルシアンの力があってこそだと、アドニスはよく理解していた。探索以外にもやれることは沢山ある…釣りでの金策。サンドバッグでの鍛錬。各町での依頼など。しかし…
アドニス(ルシアンがなかなか行こうとしなかったのは…父親との不仲だけではなく。俺が頼りないからなんだろうか…)
ミア「ドニちゃん…釣れてないんですか?」
アドニス「ぬ?」
驚き見ると、アドニスの肩にいつの間にか半妖精が座っていた。心配そうに、こちらを見つめる黄緑の目と合った。
アドニス「いや…その、大丈夫。順調だ」
ミア「…ボクには悩んでるって顔に見えるのですけど」
アドニス「…。隠しても仕方ないよな。ミア、俺はやりたいことがある。だが、それは俺1人では無理なことで。皆を巻き込むことになるんだ」
ミア「ドニちゃんは鈍感ですねえ。ボクは好きでドニちゃんと一緒にいるのです。だから、どんなことにも付き合いますよー」
アドニス「どんなに大変でも?」
ミア「大丈夫ですよ。爆散するやばい戦場を経験したボクです。だから、どんなことも平気へっちゃらですよー!」
アドニス「…ありがとう。他の皆にも話してみるよ」
ベアトリクス「賛成だよ。私も…アドニスくんの考えはよくわかるからね」
デイビッド「クク…帰ってきたアニキをおどかすにはちょうどいいかもしれませんねえ」
アドニス「良かった…本当にありがとう。それでは…デイビッド、ベア姉、ミア。遺伝子合成機に入ってくれ」
ミア「ふえっ!?」
ベアトリクス「うん。この部屋に集合の時点でそんな気はしていたよ」
アドニス「速度とHPMPが上昇し。LV41以上になったことで、職業特性が解放されたぞ」
デイビッド「おお、なんだか弾が遠くまで当たるような気がしやすね」
ミア「ふむふむ…ボクは魔法書の残り回数が減りにくくなったみたい?」
ベアトリクス「私は槍の命中率が上がったようだね。魔法が使えない場面になっても、それなりに戦えそうだ」
アドニス「よし…これで行ってみようか。レシマスへ!」
~レシマス最奥~
ゼーム「ここまで辿り着くとはな…どうやら《混沌》は」
ミア「はわぁ!?変なひとがいるですー」
ベアトリクス「かつてはパルミアの王族であり魔術師。レシマスの秘宝《常闇の眼》に魅入られた男…ゼーム。真実が綴られている《常闇の眼》を時々眺めては、偽りに満ちた歴史を嘲笑っているらしいね」
デイビッド「つまり引きこもりのおっさんっすね」
ゼーム「貴様らを消す」
偽りの預言者『ゼーム』は魔法を詠唱した。ボールがデイビッドに命中した。ボールがベアトリクスに命中した。
デイビッド「いってっ!混沌耐性があっても、この威力とは驚きでやすね」
アドニス(俺に当たったら危険だな…接近されないように気をつけないとな)
召喚の渦から現れるモンスターの群れ。LV60のイェルス狙撃兵、酸と寄生が厄介なエイリアンがいるが、落ち着いて対処すれば問題ない相手だ。しかし、それによって戦力が分散し。MPを消費してしまうだろう。
アドニス(螺旋の王が出てくるよりは良い状況だと思いたいが…)
少年の背に迫る《虚無の大鎌》。下手にダメージを受けたら、首を刈られると思い。アドニスはただただ逃げるのみだ。
ミア「執拗にドニちゃんを追いかけるなんて…まさかっ!?ドニちゃんはボクのものですよー!」
ゼーム「違うわっ!!」
アドニス「…?」
偽りの預言者『ゼーム』は魔法を詠唱した。偽りの預言者『ゼーム』は完全に回復した。
アドニス「回復魔法も使いこなすのか…」
デイビッド「それなら、MPが無くなるまで殴るだけっすよ。そうでしょう?ボス」
アドニス「ああ、そうだ。ここまで追い詰めたんだ。何度でも追い詰めてやるぞ!」
戦いは長引いた。じわじわとダメージを与えようが、ゼームは再び回復し。召喚で呼び出されたモンスターによって、PTが分散することもあった。しかし、それを何度繰り返そうが、アドニスたちは諦めることもなく戦い続け———ついに決着の時が訪れた!
アドニスは偽りの預言者『ゼーム』を射撃し殺した。
ゼーム「ば、馬鹿な…!」
アドニス「やったのか…?」
ミア「やったーですよ!ドニちゃん♪ボクたちの勝利ですー!」
デイビッド「今夜は眠れないでやすね」
ベアトリクス「本当にめでたいね。さて…《常闇の眼》とやらを回収しようか」
知的好奇心に目を輝かせて、ベアトリクスは秘宝が置かれた台座に手を伸ばす…だが、部屋の空気が突然と震え。一行の前に黒いマントを纏った、見上げるほど背が高い男が現れた。
????「そなたがここに辿り着くことは。決まっていたことなのだ…遅かれ早かれな」
アドニス「…っ!」
ミア「ま、まさか…さっきの変なおじさんは前哨戦で。このひとがラスボスですかー!?」
????「ふふふふ、ふはーはっはっはっ!そうだ、我こそは最強無敵の絶世美形吸血鬼…」
ミア「ふえぇ…」
アドニス「父上…あの、やめてください」
少年は恥ずかしそうに白い頬を赤く染める。その言葉にミアはキョトンとアドニスと同じ黒髪の男を交互に見つめた。
ミア「ええぇぇっ…!?ドニちゃんパパが幼女じゃない!?……あれ?そっちの方がおかしい???」
ベアトリクス「確かにお父さんなら男性なのが普通かな…?」
デイビッド「ぐわーっ…ファザー!?マザー!?よくわからないでやす!」
アドニス「…皆が混乱しているじゃないですか」
アネモネ「はは、すまんな。面白くて…つい。それにしても、よくぞゼームを倒したな。褒美にこの剣をくれてやろう」
アネモネはにやりと笑い、邪の力を宿す黒い刃…《モーンブレイド》をアドニスへ差し出した。
アドニス「これは…?」
アネモネ「我が子の勇姿を眺めるには邪魔な奴がいてな。ミンチにしたら落とした。せっかくだから、受け取るが良い」
アドニス「いいえ。…そういった物は受け取れないです」
アネモネ「そうかそうか。ならば、我が胸に抱かれて…」
アドニス「いらないです。ところで、父上がなぜこんなところに…?」
そう疑問に思うとおり、アネモネは遠くの地を治める領主であり。かつて冒険者だった頃のように、気軽に出かけられない身のはずだ。
アネモネ「ぬう…まあ、エリザに少し…休むように言われてな。そこにルシアンに帰還の魔法を頼まれ、久々に来たのだが…自宅にはそなたたちの姿が無くてな。行き先を知っていたガーンナから話を聞き。せっかくだから、我が子のゼーム戦参観したのである」
アドニス「ルシアンが…!」
そういうロールプレイをしたかったのもありますが、ルシアン有りのおまけ(4:57)を見ると理由がよくわかると思います。しかし火力不足だと、ゼームの回復がホント鬱陶しいですね~。MP切れまで粘れば勝てることは勝てるけど。螺旋の王が出てきたら…ミンチになりますね。
ちなみにルシアンもLV40以上にしています。…他のメンバーと比べるとステータスが高めだな。
~自宅~
ルシアン「たっだいま~!はぁ~…なんだか懐かしいぜ。皆、特に変わった様子は…なんかボロボロだな?」
ミア「ふふん!勲章ってやつですよー!ゼームをボッコボコにして、レシマス制覇したのですよー!」
ルシアン「おおーすげえじゃん!今夜は派手にパーティーをしようぜ~…っと、その前にアドニス。話があるんだ」
アドニス「話?」
ルシアン「うん。疲れているところ悪いけど。すぐに話しておきたいんだ。だから、その…2人きりにならないか?」
アドニス「…わかった」
アネモネ「…。ふむ、せっかくだ。我が子とその友人たちに料理を振る舞いたいと思ってな。台所を借りて良いか?」
ベアトリクス「構いませんよ。勝手がわからないと思うから、手伝いましょうか」
ミア「あ、ボクもやりまーす!」
デイビッド「アッシも!潰したり切り刻んで詰める係りで参加しますよ!」
アネモネ「なにやら物騒な響きだが…助かるぞ」
小さな礼拝堂で見つめ合う少年と少女。いつもの軽口は無く。互いに緊張した空気が沈黙を作っていた。
ルシアン「…」
アドニス「…」
ルシアン「…。あー…うん。呼び出した俺から話さないとな。まずは…父さんは元気だったよ。しばらく歩けないらしいけど、治るみたいだし。怪我したのは、吸血鬼…いや、アドニスと違って、すげえ悪い吸血鬼との激闘後に気が緩んで、その辺のモンスターにやられたんだってさ。まったく間が抜けているよな。……でもさ、それで父さんはハンターを引退するって、言っていてさ。アドニスの親父さんと話して、そう考えたようだけど…。驚いたよ。あの父親は…いつもどこかへ消えて、知らない場所で死ぬんじゃないかと思っていたからさ」
そこでルシアンは息を吸い、吐く。自分自身を落ち着かせるように。
ルシアン「俺は…ずっと怒っていたんだ。昔から、俺と母さんのことを置いて。無事に帰ってくるかわからない旅へ出て行く父さんの背中が大嫌いだった。けど、久しぶりに父さんの顔をよく見たら…頭の中にあったイメージより老けていてさ。どっか他人事のように思っていたのに、急に寂しくなって…今、向き合って話さないといけない!と思ったんだ。…そこからはびっくりするほど、打ち解けてなぁ」
アドニス「良かった。無理やりでも行かせたかいがある」
ルシアン「アドニス……俺、父さんの跡を継ごうと思うんだ」
アドニス「バンパイアハンターに?」
ルシアン「うん。父さんがなぜそれにこだわるのか、まだわからないところがあるけれど…。守りたいって意味はわかるんだ。…だから、俺は修行をするためにPTを抜ける。ごめんな。アドニスの旅に付き合うって約束したのに。本当に…ごめん」
アドニス「…ルシアンはそう決めたなら、そう進むべきだ」
少年は口元になんとか笑みを浮かべる。ルシアンがいない間に成長した気になっていた自分が情けなくなった。ルシアンはいつもずっとずっと先に立っている。その背が憎らしくなることもあるけれど…やはり追いかけて、隣にいたいとそう憧れるのだ。
アドニス「それに…俺も実家に帰ろうと思ってな。城にある父の蔵書で、もっと魔法や色んなことを勉強できるし」
多分、父上がここにやってきたのは…”迎え”なんだろう。ルシアンを信頼しているから、旅に出ることを許していた。他の皆のことは気に入っているように見えるけど、ルシアンほどの信用はない。
アドニス(俺は…まだ、ほっとくことが出来ない子供だと。そう思われているのだろう)
ルシアン「アドニス。…それ、本気で言ってる?親父さんみたいな冒険をしたいって、言っていたじゃないか」
アドニス「…ずっと帰ってないのも親不孝だろう。少しの間の休みさ。それに俺はお前と一緒に旅をしたいんだ」
ルシアン「俺を…待ってくれるの?」
アドニス「きっと他の皆も同じ考えさ」
これは心からの言葉だ。ルシアンがいない風景は寂しい。
ルシアン「そっか…。じゃあ、急いで父さんが認める立派なバンパイアハンターにならないとな~」
アドニス「ああ、俺も負けないように頑張るよ」
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