クレイモア吸血鬼の旅行記55


アネモネ「そろそろ白衣の天使に会いたい。もとい、爆散戦場幽霊男の手紙を届けたいところだったが…」
ポート・カプールの幽霊アーノルドから依頼された手紙配達。届け先であるテレーサの情報を追い、その母親のもとへ辿りついた吸血鬼たちだが… 娘は1年近く行方不明になっているという。
エリザ「テレーサさんは、あの人が死んでしまったことをひどく後悔されていたのね… もっと早く手紙を届けられたら変わっていたのかしら…?」
アネモネ「1年前、我らは旅行に出かけていた。それは変わらぬ過去だ。それにまだどうなったのかわからぬ。この手紙を届けるまで、我は探すぞ」
エリザ「そう…ですわね」 暗い表情をしていた少女は吸血鬼の言葉に微笑んだ。

 

ドラクル「お嬢様。気になる点を見つけたのですが、よろしいですか」
老紳士は吸血鬼にそう囁いた。なぜ小声なのか不思議に思いながら、アネモネはドラクルの視線の先を見た。

壁に立て掛けられた平面地図に、薄っすらとだが目印が付いている。探索で謎解きするのがごく当たり前の冒険者にはわかる印だが、一般人にはただの汚れに見えるだろう。
アネモネ(ご夫人は気づいてないようだな。…確かに知らせるべきではないな。娘の行き先のヒントがそこにあったなど)「よくやった、ドラクル。後で褒美をくれてやるぞ」
ドラクル「それではお嬢様とデートを」
アネモネ「この前流した冗談をまだ言うかー」(…いや、冗談であるよな?)
ドラクル「ふふっ。それでは新しいティーセットが欲しいですね」
アネモネ「それは良いな!いつもと異なるティーカップで飲む紅茶は素晴らしいであろうな」(深く考えないでおこう)

 


アネモネ「…見えるか?金髪碧眼の透け透けナース服の女性を」
ドラクル「はい。見えますね。金髪碧眼の透け透けナース服の女性が」
ジル「僕も見える!ですです。金髪碧眼の透け透け」
エリザ「繰り返すのやめてくださる!それに、なにか別の意味で聞こえるのですけど…」
アネモネ「気のせいだと思うぞ~ さて、話を聞くとしよう」


テレーサ「私は一年前、この井戸から身を投げました…。生き甲斐だと思っていた治療に意義を見出せなくなり、自分が無力だと知ってしまったから…。ここは静かで、とても落ち着きます…。私の事はもうそっとして置いてくれませんか?」
アネモネ「それは出来ぬ。そなたに用があるのだ。正確にはポート・カプールの幽霊がな」
テレーサ「幽霊…?ポート・カプール…もしかして、アーノルドさん? ……。あの人は…私のことをきっとひどく憎んでいるでしょうね。かならず治してみせるって約束したのに…私、結局何も出来なかった。アーノルドさんは新米で失敗ばかりだった私をずっと励ましてくれていたのに…」
アネモネ「その男からの手紙だ」
吸血鬼は有無を言わせないとばかりに手紙を差し出した。テレーサは戸惑った様子を受け取り、怯えに指を震わせながら封筒から手紙を取り出し、彼からのメッセージを読む。悲しげだった顔は少しだけ笑い、頬を赤く染め、そして…


テレーサ「ああ…そんな…。彼が私を許してくれてただなんて…。私に自分の分まで強く生きてほしいと…。それなのに、私は一人で勘違いして、こんな…。ごめんなさい、アーノルドさん…。ごめんなさい、お母さん…。どんなに後悔しても、私にはもう謝罪の言葉を伝えることができない…」
アネモネ「この地に縛されている?何を言っているのだ。そなたは会いたいと、言いたいことがあると思ったのだろう!なら、己を縛るものなど無いわ!我に憑いてこい!」
テレーサ「あなたの身体に憑けと…?えええ…い、いいのかな…?」
アネモネ「良いぞ。憑かれるのは”初めて”ではないしな。ははははははははっ!」

 


アネモネ「ふははははははははははっ!本人を連れて来てやったぞ!貴様と同じく幽霊だが、気にするな!」
テレーサ「アーノルドさん…。ごめんなさい、私…どうしてもあなたと話がしたくて」
アーノルド「なんでことだ…。君まで幽霊になっていただなんて!ま、まさかとは思うが、自分が陣没したせいで…君は…」
テレーサ「そのことはもういいんです。全部、私の勘違いだったんですから。あなたが気に病むことなんて何一つありません」
アーノルド「し、しかし…!」
テレーサ「それより…あの、お手紙の最後に書いてあった…告白の、お返事をしたいんですけど…」
アーノルド「えっ!?い、いや…あれは…!自分はてっきり、君がまだ生きてるものと思って…。つい勢いでというか…ははっ、いや…その、参ったなぁ!」


エリザ「うふふっ。良かったですわ♪ …本当に素敵なことね」
お熱い雰囲気の幽霊たちから離れ、住宅地から市場の方へ歩いていく一行。少女は楽しそうにうっとりと、恋に夢想している様子だ。
アネモネ「死によって裂かれ、けれど死によって結ばれた。なら、死神に永遠を誓うのだろうか?死が2人を分かつことはないかのだからな」
エリザ「あなたは死に誓うのですの?」
アネモネ「そんなものに誓わん。我は我の愛に誓うぞ」
エリザ「そ、そうですの… なら、あの」(ペンダントに装飾した深紅の石…いつでも渡せるように持っていたのだから、このチャンスで渡さないと…!)「私も…きゃ!?」


混み合った往来を歩くすれ違いざま、不意にエリザの肩に通行者が担ぐ大剣の柄が接触した。持ち主であるフードの女性は、こちらへと一つ会釈を返すと静かに歩みを再開する。
アネモネ「…っ!」
…交差する際に感じた鋭い視線。その眼光が銀の輝きを放ったように思え、吸血鬼は咄嗟に振り返った。
アネモネ(もう姿が見えぬな。一瞬であったが、強い意志を秘めた眼。とても惹かれる娘である。…楽しめそうだ)「…エリザ。ケガはないか?」
エリザ「ええ。びっくりしただけですわ」(ううっ、タイミングが…でも、こんな人が多いところで。勢いでやらなくて良かったのかしら。でも、アーノルドさんは勢いで。ううん)「…さっきの人を見つめて、探すように振り返っていましたけど、何か気になることでも?」
アネモネ「いや、良い女と思ってなぁ~…ハッ!」
エリザ「………そう。私の心配より先に、そっちの方が気になっていましたのねっ!」
アネモネ「いや、我はな。そういう意味で…だが、美味しそうであったな…ではなく!それより、エリザ。先ほどの話のつづきを…ま、まて… ぬわあああああああああああああああっ!!」
ドラクル「お嬢様らしいですね」(…様々な良い匂いがしましたね。先ほどの娘から。香ばしい人間の血の匂いが)