うららかな眠気誘う陽の光、心地よい風に木々がざわめく森には、暗い色に沈む沼地が広がっていた。そんな風景の中に、不自然なほど、蓋を開けた棺桶が突然と置かれていた。ざくざくと草の根を分けて、進む足音はそこで止まり。青い瞳が棺桶の中を覗き込むと、吸血鬼が横たわっており。物音か視線か、こちらに気付いた様子で、薄く目蓋を開き。やってきた友人を見つめた。
マリー「…。寝心地良いのか?」
アネモネ「安らかに眠れるぞ。寝返りをしても、まあまあ余裕がある作りだ。お前も入ってみるといい」
マリー「遠慮する…」
アネモネ「生きている間に体験するのも楽しいと思うぞ?それに、イルヴァでは棺桶は一般的な寝具だぞ」
マリー「相変わらずおかしな世界だ…。それはともかく。店の在庫がほぼ無くなっているぞ」
アネモネ「なぬ?」
アネモネ「本当にほぼ無いな。流石だマリー」
マリー「はは、ありがとう。お前が私にひたすら投げ続けた下落ポーションのおかげで、交渉スキルがLV200以上もあるからな。それで、どうする?しばらくネフィア探索でもするか」
アネモネ「……神を汚す」
マリー「なっ…!?」
アネモネ「ふはーははははははっ!!狂信者たちの祭壇を乗っ取り、現れた神の化身共を駆逐すれば、装備などすぐに集まるであろう!ははははははははははっ!!」
エリザ「そのセリフにデジャブを感じますけど…また逃げ帰る結果になったらマヌケですわよ」
アネモネ「己の力を忘れたのか、エリザ。昨晩はその恐ろしいほどの腕力で、我の背をへし折ろ」
エリザ「~!!!」
顔を真っ赤に染めた少女は無言で吸血鬼の頬をいつもより強くつねった。
アネモネ「ぬわああああああああああああああっ!?」
ジル「背を…折る?マスターとお姉さま、プロレスでもしていたのでしょうか?」
マリー「そ、そうだな…」
ドラクル「微笑ましいでございますな」
アネモネ「ふふふ、はははははははっ!ふはーはははははははははははっ!見よ。これが我と素晴らしい下僕共の実力であるぞ!ははははははははははははははははっ!!」
エリザ「以前は全然終わりませんでしたのに…。ふふっ、確かに成長を感じますわね」
マリー「これなら、売り物にしばらく困らなそうだな。しかし突然、神を…なんて言い出した時は驚かされたな。ケンカでも売るのかと…」
アネモネ「神殺しをするとでも?ふむ…間違っておらぬが」
マリー「え?」
エリザ「また阿呆なことをおっしゃって…ご自分の生命力を知っていますわよね?」
アネモネ「10である」
エリザ「あら、びっくり。私もみんなも生命力10ですわ」
アネモネ「ははは。そうであるな」
エリザ「何笑っていますのー!ム・リ!絶対無理ですわよ!!挑んですぐミンチになるだけですわ」
マリー「…ひとつ、聞いていいか。神と戦うことも普通なのか?」
エリザ「はい?…普通ではないと思いますけど。極めた冒険者が願いの杖で神を呼び、挑むのはよく聞く話ですわね」
アネモネ「そうだ。神に力試しすることはおかしなことではないぞ。神を愛するあまり、何度も何度も手にかけ、残骸を集め…人体錬成する者よりは健全な行為であるぞ」
マリー「何を言っているんだ…?」
~子犬の洞窟-89層-~
アネモネ「さて、久々に子犬のぬぐわああああああああああああああああああっ!?」
爆風がアネモネに命中した。アネモネは悲痛な叫び声をあげた。
ドラクル「カミカゼイークにこのようなダメージを受けるとは久方ぶりでございますな」
アネモネ「昔、そなたと2人きりで戦ったイークの洞窟を思い出すな」
エリザ「呑気に懐かしんでいますけど。まだまだ居ますわよ」
アネモネ「はははっ!先刻の不意打ちに耐えたのだ。態勢を整え、契約と鼓舞をすれば何も問題ない」
エリザ「どう見ても、あなたの残りHPギリギリなのですけど…」
アネモネ「は、ははは…。運も実力の内だ」
エリザ「そう…。幸運の女神の気まぐれが続くといいですわね」
カミカゼイークの爆散なんて、もう気にならないものだと思っていたが…もっと爆発連鎖していたら危なかったな。
ジル「はわーーーーーーーーっ!?」
アネモネ「ぬわーーーーーっ!!」
ボルトが命中した アネモネとジルは発狂して死んだ。
エリザ「幸運の女神に飽きられた…というにはおかしい火力ですわね。そこにいるのはプチですわよね?」
アネモネ「我は悪夢でも見てるのか……いや、そこに居るのはLV500もあるというブラックプチではないか」
ドラクル「LV上げて殴る、をされた訳ですか。プチがこのようなダメージを出すことに驚嘆しますね」
エリザ「本当にびっくりですわ…。でも、LV500とはいえ、プチに負けるなんて…。やはり神殺しは、諦めた方が良いんじゃなくて?」
アネモネ「…この程度、我は心折れぬわ!」
存在は知っていたけど。まさかランダムネフィアに出てくるとは思いもしなかった。アネモネが突然ミンチになって、しばし呆然としたね。”羅刹”で難易度が高くなっていた影響かな。
~野外-少女騎士団-~
アネモネ「麗しいお嬢さん方、我に任せるがよい」
エリザ「あの…私、ものすごく嫌な予感がするのですけど…」
アネモネ「ふふ、気付いているぞ。だが、挑むのだ!」
ジル「マスターが頑張るなら、僕も頑張るのですです!」
エリザ「まあ、こうなりますわよね…」
アネモネ「だが、前と違ってジュア信仰ではないぞ?」
エリザ「止まない治癒の雨はありませんけど。ここまで削っても、減る気配が無いですわよね…?」
アネモネ「止まるまで血の雨を降らせるのが、我の主義であるぞ。…我は退かぬっ!!媚びぬ!!省みぬ!!」
エリザ(つまり。ここまで来て逃げたら、負けた気分になるってことですわよね…。まあ、わかりますけど)「もう、しょうがないひとね」
~16分後~
マリー「ねうねう~ねうねう~…ハッ、気が遠くなっていたようだ…」
ジル「はわわ~…ものすごく長く戦っているような気がします~…??」
ドラクル「ジルさん。気のせいではないですよ」
エリザ「ふぅ…だいぶ減ってきましたけど。本当に終わりますの…?」
アネモネ「もぐもぐ」
エリザ「…何、食べていますの?」
アネモネ「おハーブである。腹が減っては戦は出来ぬからな。食事は強い力を生み出すのだぞ」
エリザ「どうしましょう…私。あなたの背を抱いて、そのまま後方へと反って投げたい気分ですわ」
アネモネ「ひえ…。は、ははは。ここまで減ったのだ。もうすぐ…もうすぐ終わるはずだ」
エリザ「…」
アネモネ「すまぬ…。後でなんでもお願いを聞いてやる。皆、それぞれのをな…」
マリー「に、肉を…いっぱいの肉を……美味い肉が食べたい……」
アネモネ「ほう。焼肉パーティーにするか。幸い、肉なら沢山……いや、冗談だ。マリー、殺意を込めて我を睨むな」
青い空へ吸いこまれていく白い煙。吸血鬼の城の庭に漂う、食欲をそそる良い匂い。熱気を放つバーベキューセットの前に立つ吸血鬼は少し汗を流しつつ、油滴る肉が焦げないように、忙しくひっくり返し。充分に焼けたものを皿に置いていく。しかし、肉はすぐに消えた。
マリー「んんまい~」
エリザ「…美味しい。あなたー、もっと焼いてちょうだい~!」
アネモネ「うむ、任せよ」(…我はいつ食べれるのだろう)
もうひとつあるバーベキューセットでドラクルが手伝ってくれているが、先ほどの戦いでよっぽど腹を空かしたのか。エリザとマリーはどんどん焼肉を食べていく。特にマリーはペースが早い。速度700以上だからか、と思ったが。アネモネはふと過去の記憶が蘇る…。
アネモネ(大食漢で、大の肉好きだ。あいつは…。しまった…我が城の肉がすべて消えるかもしれん)
ジル「マスター、その…僕も手伝いますよ」
アネモネ「おお…助か」
ジル「山積みのお肉に火炎瓶+64をぶん投げて、ぜーんぶ終わらせてやります♪」
アネモネ(肉が終わる)「いや、我は料理大好きだからなー。ジルも沢山食べると良い。より強く成長できるぞー」
焦りで少し棒読みになりながら、吸血鬼は少年の頭を優しくなでた。
ジル「うぃひっ、ひひひひひひひひひ…♥僕、いっぱい食べて強くなりますね!ひひひひひひひひひひひひ♥♥♥」
アネモネ(教えるのが大変そうだ…。だが、いつか料理の仕方を教えよう。いずれの日に…)
喜びの声を上げながら、大人しく席に座るジルを見つめ。アネモネはそう思う。だが、その日が来るのか…いずれの、どこかで語られるかもしれない。
アネモネ(……美味い食事は強い力を生み出すが…それだけでは足りぬ?ならば、アレを)
エリザ「あなた…あ~ん」
アネモネ「あ~?」
いつの間にか傍らに居た少女の呼びかけに、つい唇を開けると何かを口の中へ放り込まれた。舌の上で広がるタレの甘味。ほどよく焼けた柔らかな肉の食感。
アネモネ「………美味い」
エリザ「うふふ。あなたが調理したものだから、当然ですわ。…流石にそろそろ、私たちばかり食べてるのも悪いと思いましたから」(…それに食べすぎましたわ。後で運動しませんと…)
アネモネ「そう…か。うむ、そうかそうか。もう1度やってもいいのだぞ。いや、口移しでも良いぞ~」
エリザ「…っ!!?ちょ、調子に乗らないでくださる!この阿呆吸血鬼!」
アネモネ「ぬわっ!?我の肩を掴んで揺らすなっ!肉が焦げるーっ!!」
狂信者→肉戦。
記事に貼る動画をどう編集しようと考えた結果。字幕、メタ発言による解説という形にしました。
LV100の神の化身たちに勝利できたのは、本当に成長を感じられた場面だったが…相変わらず高LV分裂モンスターはやばいな。しかし、それなりに倒せてしまうから。はっきりダメだと思えず。また挑んでしまうんだ…。後、バブル浴みたいにスキル上げも出来るし。まあ、流石に19分はやりすぎた感があるが。マリーがミンチになってなかったら、もっとやっていたかもしれない。
ところで、しばらくエリザの速度がえらい遅くなっていたことに気付いた。スラッジビーストの弱体化の手が原因だな…。
実は魔女戦に向けた準備回を書く予定でしたが…思いの外、色々とログが溜まっていたので。それはまた次回に。
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