クレイモア吸血鬼の旅行記79 ノヴィスワールド-パルミアの休日-


???「……ネ………アネモネ…」

アネモネ「…? そなたは…ラーネイレ?」
優しい声に導かれるように目蓋を開くと、陽が沈み暮れていく宵の空が見えた。風に揺れる大樹を背に青い髪の少女は不思議そうに、寝ぼけた様子の吸血鬼を見つめている。
ラーネイレ「うふふ、良い天気だったから寝てしまったのかしら?」
そう微笑む彼女に、吸血鬼は希望とも絶望ともなる可能性…ナーク・ヴァーラを探している現状が思い浮かんだ。ついさっきまで、そのことを忘れていたように。

アネモネ「…温かな陽の光が傍にいるおかげかもな」 吸血鬼は寝返りするフリをして柔らかな白い太ももへ転がろうとしたが、ラーネイレは急に立ち上がり、アネモネの顔は草むらに埋もれた。
ラーネイレ「アネモネ、前に付き合ってほしい場所があるって言ったことを覚えている?お互い状況も落ち着いたことだし、そろそろあなたを誘おうと思っていたの。少し遠出になってしまうのだけれど…あなたの都合はどうかしら」

アネモネ「…そのようなことを言っていたな。いつでも、今からでも構わぬぞ」
ラーネイレ「良かった…!それじゃあ早速出発しましょうか」

 

~パルミア郊外 ノースティリス街道~

林道を進むラーネイレがこちらへと振り向き、ひらひらと手を振っている。透明感のある、涼しげな声。今回の行楽が余程楽しみだったのだろうか。あなたより少し先を歩く彼女の瞳は、普段見せない快活な光に満ち溢れている。
ラーネイレ「…良い風。こんなに穏やかな気分で外を出歩くのはいつ以来かしら。自分でも知らず知らずの内に、気を張り詰め過ぎていたのかも…」

アネモネ「それは良い。軽やかに歩く、そなたの姿はとても可憐だ。思い存分に羽を伸ばすがいい」
ラーネイレ「…これから向かう森はね。私が使者として初めてパルミアを訪れた時、ジャビ王に案内して頂いた場所なの。まだほんの子供の頃、故郷が恋しくなってベソをかく小さな使者を、きっとあの方は見兼ねたのでしょうね。生い茂る緑を見て大はしゃぎする私の姿に、陛下や護衛の人たちは「腕白娘だ」なんて言って笑っていたっけ…」
昔の思い出を次から次へ語るエレアの少女の表情は明るく、底がないおしゃべりをしている間に話題の森へ到着したようだ。
ラーネイレ「あ…ここよ。確かこの脇の茂みを潜って…ふふっ、なんだか昔の自分に戻ったみたい」


ラーネイレ「驚いたわ…。あの頃から何も変わっていない…。これならきっと、あなたを案内することが出来ると思う」

アネモネ「美しい森であるな。それなりにノースティリスの地を旅をしていたが、まだまだ知らぬ場所があるのだな」
ラーネイレ「それは良かったわ。アネモネにこの景色を教えることが出来て…きゃ!」 気が付くとエレアの少女は鳥やウサギに囲まれていた。動物たちは無邪気に彼女の周りを跳ねて飛び、その光景に呆然としていたラーネイレはあどけなく笑った。「うふふ、あはははは♪」 これが彼女本来の笑顔なのかもしれない。

 


ラーネイレ「…ねぇ…冒険者さん、こっち…ちょっと来てみて。そう、静かにね」
空に向かって生い茂る大樹の根本…。その地面に掘られた洞を覗き込みながら、ラーネイレがこちらに向かって手招きしている。…吸血鬼は足音を殺して彼女の傍に近づいた———…
ラーネイレ「ほら、見て。…可愛いでしょう?プチの巣よ。いち、に、さん…子供が3匹にお母さん…お父さんはエサを取りに出かけたのかしら」
…見ればそこには、家族連れのプチが寄り添うように息を潜めて棲息していた。プチたちはラーネイレの気配に気がつくと、ぴょこぴょこ飛びはねながら興味深げに洞の入り口へ近づいてくる。
ラーネイレ「おいで…怖くないわ。…ふふっ、あなたたち、人懐っこいのね」
彼らを腕や肩に乗せながら、ラーネイレは楽しげにその双眸を緩める。手乗り大の子プチを抱いてみないかと彼女に勧められたその時————…不意に吸血鬼の真上の繁りがガサガザと鳴り、枝から1匹のプチが落下してくる。アピの実を咥えたその親プチは、あなたの頭上に柔らかく着地すると、そのまま居心地良さそうにぷるぷると震えた。

アネモネ「ぬう?」 少しひんやりとしている。ゼリーと餅の中間のような感触だ。
ラーネイレ「———ぷっ…ふ、ふふふっ…ご、ごめんなさい…だってあなた、プチを頭に乗せたまま…。ふふっ」
一連のやり取りに、ラーネイレが堪えきれず小さく吹き出した。手のひらに収まる小さな森の住民は、相変わらず暢気そうに持ち場を動こうとしない。プチを頭に乗せたまま首をかしげる吸血鬼の姿に、風を聴く者は笑い声を堪えたまま、可笑しそうに何度も目尻を拭うのだった———…

 


ラーネイレ「この柱…」
ファルガの史跡の其処彼処に建つ古い石柱。そのひとつを見つめ、ラーネイレは感慨深げに足を止めた。
ラーネイレ「…子供の頃、この石柱の上に登った記憶があるわ。危ないからって、止めようとする護衛の人たちの制止を振り切って。今の今まで忘れていた…。…私って、本当に手の付けられないお転婆だったのね」
過去を思い浮かべながら、エレアの少女は柱の周りを少し歩き…何か見つけた様子で立ち止まった。
ラーネイレ「たしか…この辺りに取っ掛かりが…。大丈夫よ、もう昔とは違うんだから。上背だって伸びたし、腕力も…よい、しょ…」 器用に柱の彫刻や欠けた個所に手足をかけて、登っていくエレアの少女。

アネモネ(…素晴らしい。なんて素晴らしいのであろう…!) 吸血鬼は真剣な表情で、その素晴らしいものを下からよく見ていた。
ラーネイレ「見て、冒険者さん。ちゃんと登りきれたでしょう?…懐かしいわ。今でこそ大した高さには感じないけれど、あの頃はまるで自分が巨人になったような気分だった…。13年前も、登りきるところまでは上手くいったのだけれど、その後頂上から降りられなくなって———…きゃあっ!?」
短いの悲鳴の後、足を滑らせたラーネイレが、吸血鬼の腕に飛び込むように転げ落ちてきた。

アネモネ「ぬわっ!?…柔らか……いや、大事はないか。ラーネイレ?」
ラーネイレ「…っ…ぅ…。ごめんなさい、冒険者さん…。思いきり下敷きにしてしまったけれど、怪我は————…っ!?」(顔が…近いっ!?そ、それに…)
まるで正面から押し倒し、密着するように吸血鬼を抱いているような体勢に。見る見るエレアの少女は林檎のように顔を赤く染め、ぐるぐると動揺に目が泳いでいる。
ラーネイレ「あ…私…。その…すぐにどくから…」
飛び退って距離を取ると、ラーネイレは焦ったように衣服の乱れを直しはじめる。それからしばらくの間、気まずい沈黙が彼女との間に流れるのだった。

 


奥へ歩いていくと、苔むした古い泉を見つけた。吸血鬼はふと石を投げて水面を跳ねさせる、水切りという遊びが思い浮かび。石をひとつ拾い、泉へ投げる。石は3段跳ねて沈んだ。

アネモネ「ふふ…」
興に乗った吸血鬼は先ほどより大きい鉱石を投げ込み、次は巨大な岩石を投げる。

アネモネ「ふはは!はーっははははははははっ!」
ラーネイレ「あの…アネモネ…?」
その細腕から想像できない怪力で吸血鬼は次と次と岩石を投げていく。派手な飛沫を上げて跳ぶ巨石は積まれた石の山に当たって砕ける。静かな古い泉はまるで砲撃でも受けたような惨状となった。


怒りに震える声が響く。泉の底から淡い燐光が溢れ、人の形へ収束していく…
???「ちょっと君ねぇ…!ここが何処だか分かってる?ファルガはパルミア建国と同時に建てられた由緒ある史跡なのよ!貴重な文化遺跡なの!それに大砲をぶっ放すみたいなことをして…!」
ラーネイレ「あの…あなたは?」
マーリン「見て分からない?私はこの奇跡の泉に棲む水の精霊…マーリン。久しぶりの来訪者だっていうから期待してたのに、こんな無礼千万な人たちだなんて、失礼しちゃう…———…って、あれ?そう言うアナタは…」
ラーネイレ「?」
マーリン「ああーっ、思い出した!13年前、ここで大はしゃぎしてたエレアの腕白娘!そうでしょう!?」
ラーネイレ「…私のことを、知っているの?」
マーリン「そりゃあね。なんたって私、井戸の底から騒動の一部始終を眺めていたもの。へー…驚いたわー…。あのお転婆がこんな物凄い美人に成長してるなんて…。覚えてる?自分がパンツ丸出しで向こうの柱によじ登ってたこと。私から見ても、あれは女としてかなり終わってる光景だったわ」
ラーネイレ「な…そ、そんな記憶、私には———…」

アネモネ(変わらないものだなー)
マーリン「…単に気にしてなかっただけじゃない?フフッ、だけど人前でちゃんとお澄まし出来る程度には女らしさも身に付けたワケだ…。うんうん。旧交も温められたし、今日はなんだか気分がいいわ。あなたたちには特別サービスしてあげちゃおう」
精霊は妙にノリノリした調子でウィンクし。吸血鬼の方を見る。
マーリン「じゃあ質問するわね。踊れ月光アネモネくん。君がさんざん泉に投げ込んでくれたのは、この金の石ですか?銀の石ですか?それとも普通の石ですか?」

アネモネ「ロミアスである」
マーリン「…息をするようにそんな答えを返すあなたに、私は戦慄を覚えるわ…。というか、誰よ、ロミアスって。…まあ、今のは単なるテストだけど。こんな要領でね、あなたが投げ込んだアーティファクトと遺跡のマナの相性が合うようなら、私が祝福してより強い器に変えてあげる」

アネモネ「ほう、それは面白いな」 吸血鬼は迷いなく荷物から《バニラロック》を取り出し、泉の底へ全力投球した。
マーリン「い、痛ぇ!!…もう、君ねー。石はやめろって言ってるでしょう?しかもアダマンタイト製とか…。ひょっとして嫌がらせ?嫌がらせなの?」

アネモネ「我が落としたものは《バニラロック》であるぞー」
マーリン「…そんな正直者には、この《ラピスアダマス》をあげましょう…っ!」
精霊は高々と腕を上げる。その手の平はマナ錬成で光輝き…より強力な武器となった《ラピスアダマス》を吸血鬼へ投げつけた。

アネモネ「はははっ。可愛らしいもので…ぬぐわっ!?」 性質変化したアーティファクトは自動的に周囲に結界を生成し、堅牢な守りと相手の鎧を打つ崩す矛となって、吸血鬼の腹に直撃した。「は、ははははっ!なかなかやるではないか」
マーリン「またのご利用をお待ちしているわ。フフッ」

 


その場所は古代樹によって囲まれた、緑の溢れる湖沼だった。森奥に広がる静謐の中、吹き抜ける風に水面が揺れ、光の粒子が翡翠のような輝きを放っている、透き通る水の端を拳で掬い、ラーネイレはそっと息を吐いた———…
ラーネイレ「ここは…昔と少しも変わらないのね。13年前、私が訪れたあの時のまま…。———今日はありがとう、冒険者。私の我が侭に付き合ってくれて…。どうしてももう一度、この景色を目に焼き付けておきたかったの。私がヴィンデールの外で初めて触れた、世界の美しさの片鱗を教えてくれた風景を」

アネモネ「確かに美しい場所である。まだ知らぬ世界を見れて楽しかったぞ」
ラーネイレ「…ここは、”私”の始まりの場所だから。探検の末、迷い込んだ森の中でこの湖に出会って…。私はジャビ王の手を引いて、その場に居る全員に湖までの道を案内した。私たちは異形の森の民。災いの風を生む異端の象徴。…少なくても、エーテルに蝕まれる人々にとってそれは真実だった…。それでもね、みんな綺麗だって笑ってくれたわ。この風景を見て、同じ時間を共有した全員が、互いの境遇を忘れたように…。在りのままの光景を受け止めて、思い思いに笑顔を浮かべていた」
その時の光景を思い出すように穏やかな笑みを浮かべるラーネイレ。けれど瞬きの間に笑顔は消え、彼女の表情は強い決意を秘めたものへ変わっていた。
ラーネイレ「あの日から、もう随分と遠いところまで歩いて来てしまった気がする…。自分が何処を目指していたのかも忘れるほどに。…静かに死に行くこの世界で、けれど自ら破壊の箱を開けたヒトは、拳中に残された希望にようやく目を向け始めたわ。その光に”ロスリア”という名を与え、罪悪の枷を嵌めることで形にしようとした者もいる」


ラーネイレ「過去を悼み、まだ可能性を捨てたくないと誰しもが願っているのだとすれば…。憎しみと不信の壁を越えて、手を取り合う意志が人々の内に残されているのだとすれば…。まだ、希望は失われていないと私は思うの」
淡い木漏れ日に散る蒼碧の飛沫。外界の柵から切り離された湖のほとりで、ラーネイレは語る。

アネモネ「…それが、そなたが選ぶ道なのか。かつて、その人々に」
ラーネイレ「———ごめんなさい…」
視線を落としたままラーネイレが呟く。全てを受容する深い母性と、自身の在り方を悟りきった聖女のような横顔。しかし、謝罪の言葉を口にする彼女の唇は所在を無くし、歳相応の少女のように、ひどく頼りなげに震えていた。
ラーネイレ「今日一日をあなたと過ごせて、とても楽しかった…。あなたと一緒に居ると…私は時々、今まで知らなかった自分自身に気付かされるの。戸惑うことも多いけれど、それはとても新鮮で、手放したくないと思えるもので…。だけど、だからこそ、決して選んでいけないものだとも思った」
自由に気ままに、何物にも縛られることない冒険者。他国との交友の象徴…ヴィンデールの森の巫女として育てられたラーネイレには遠い存在だ。
ラーネイレ「私とあなたの行く道は違う…。あなたを私の生き方に巻き込めない。私があなたのためだけに生きられないのと同じように…」

アネモネ「…」 ひたむきに己の信念へ進もうとするエレアの少女に、吸血鬼はなにか既視感を覚えた。
ラーネイレ「…かつて目指したあの”はじまりの風景”は、きっとヒトの抱える”業”と向き合うことでしか手に入らないと思うから。もしも、ヴァリウスが終末の歩みを止める突端を掴んでいるのだとすれば、其処には賭けてみる価値があるのではないかとも…。————…私は、ロスリアに渡るわ…。そしてもう二度と、この場所には帰らない。…あなたと共に過ごした、この場所には…」
そう言ってこちらを見据える蒼い瞳が、深く沈むような翳りを宿す。それは決別の言葉だった。名も知らぬ感情に当惑しながら、かろうじて紡ぎ出された決別の言葉。…しかし、葛藤や不安に揺らぐその姿は、先ほどあれほど遠いと感じさせた彼女との距離を、すぐ傍まで引き寄せているようにも感じられた…
ラーネイレ「…とても身勝手な事を言っている自覚はあるの。許して欲しいとは言わない。だけど…私、は…—————っ!?」
言い淀む声を遮るように、吸血鬼はラーネイレを正面から抱きしめた。前髪が触れそうなほどすぐ近くで、彼女が小さく息を飲む音を聞いた気がした。服越しに伝わる心臓の鼓動と、見開かれる瞳。だめ…と、か細い声で呟くラーネイレ…。しかし、はっきりと拒絶することが出来ずにいる。彼女と誰かが重なる…それに恐れを感じた。ここで別れたら生きた彼女にもう会えないような…
ラーネイレ「どうして…」
不意に、彼女の表情が哀しげに歪んだ。その目元に浮かぶ涙を見て我に返り、吸血鬼は腕に込めた力を反射的に緩める。
ラーネイレ「違う…私、は…」
———何を伝えようと口を開き、結局は言葉にならず押し黙る。彼女に出来たのは、ただ後退ることだけだった。自身の感情すら咀嚼できないまま、気付けばラーネイレは逃げるようにその場から駆け出していた。振り返り、自分を見つめているであろう冒険者の顔を正面から受け止めるのが怖かった。
…その行為がまた彼女を傷つけているのではないかと思い至り、ラーネイレの胸にチクリとした痛みが走る。自分が何を求めていたのかも分からず、ここで何を伝えようとしていたのかも分からずに…木々の隙間から差し込む斜陽にすら煩わしさを覚え、ラーネイレはきつく目蓋を閉じた————…

 



ラーラララさん大出血サービス(血吸いエンチャントがついた装備をしているせい)ここら辺でスクショしようとしたら、血まみれになっていて何度か入り直したものだ。

デートイベ2は1と比べて、終わりへ近づいた内容になっていますね。ヴァリウスとラーネイレの幼馴染はメインストに絡むだろうし。ラスボスを倒した後に、デートイベ3でどの娘とEDを迎えるかの話になるのかな?