クレイモア吸血鬼の旅行記67


うふふ…仕方ない子ね、あなたは本当に甘えん坊さんなんだから。パエル。街の子供たちがあんなにたくさんお家に遊びに来てくれているわ。お昼寝が終わったら、あなたもあの子たちと遊んでらっしゃいね…?
あなたが笑顔でさえいてくれれば、私は他に何も要らないの…。大丈夫。大丈夫よ…。あなたがいつか目を覚ますその時まで…私が傍で、ずっと子守歌を歌い続けてあげるから…

 

何処からか子守歌が聞こえてくる————…

屋敷の一室にぼんやりと蒼い幻灯が浮かんでいる…。消えては燈る蛍火の向こうには、あなたの見知る少女の姿があった…。
アネモネ「パエル。久しぶりだな」
パエル「うん…久しぶりだね、冒険者さん。また会えて嬉しい…。私はこんな姿になってしまったけれど…ずっと冒険者のことを待っていたわ…。出来れば、もっと違う形で再会したかったな…」
アネモネ「母は…どうしている?」
パエル「…お母さんのエーテル病の一件があってからすぐ…今度は私が流行り病にかかって倒れてしまって…。お母さんは私を助けるために随分、無理をしてくれたみたいなんだけど…。ごめんね、熱のせいでよく思い出せない…。気がついた時には、私は……」
ぼんやりとした半透明な姿でも、その悲しげな顔はハッキリと見えた。
パエル「私をもう一度、現世に甦らせようとして、お母さんは狂ってしまった…。それでも、まだあの時までは良かったの…。お母さんがどこからか手に入れたあの一冊の本を開くまでは…。館に連れて来られた子供たちは、新しい”私”を作るための素材なんだって…。きっと、本の中から出てきたあのお化けがお母さんに悪いことを教えたんだよ」
アネモネ「…」(死者を復活させる方法はあることはある。だが、ゾンビになる可能性が高い。それに、今まで魔術や錬金術と縁が無かった人間に扱えるものではない。叶わぬ夢を見させるなど、許しがたいことだ…)
パエル「たくさんの人にヒドいことをして…。すごく、すごく怖い…。だけど、それでも…お母さんを救ってあげて…。これ以上、お母さんの苦しむ顔、見たくないから。だから…」
アネモネ「わかった… それ以上、言わなくてよい」
パエル「…ごめんなさい、こんなことまで押し付けちゃって…。最後の最後まで冒険者さんに頼りっぱなしで、なんだか情けないな…。……。辛いとき励ましてくれたあなたに、お母さんのために頑張ってくれたあなたに、私、今でも感謝してる…。ありがとう冒険者さん…。ずっとずっと、大好きよ…」
燐光が立ち昇り、次の瞬間、パエルの姿が幻のようにかき消える。部屋に少女がいたことを示す痕跡は何も無く…。ただ、静謐と蝋の光がもたらす影だけが残されていた…。
アネモネ「おやすみ…パエル」

 


優しい歌が聞こえる。歌う母の顔は穏やかで美しく、まるで宗教画の聖母のようだ。
リリィ「…あら、こんな格好でごめんなさい…。お久しぶりね、冒険者さん。最後にあなたに会ったのはそう…いつだったかしら…。昨日のことだったような、とても昔のことだったような…。変ね、何だか記憶が少し曖昧だわ…」


リリィ「良かった…。これでもうパエルが苛められることもないわ…。それなのに…どうしたのかしら?肝心のパエルがどこにもいないの…。あの子ったら、本当に何処に行ったのかしら?」
リリィは無邪気に首をかしげている。飛び散る血塊に赤く染まった部屋。我が子の屍をしっかりと抱きしめ、変貌した”脚部”でグチャグチャと腐肉を咀嚼するその様には、狂気の陰が宿っている。
アネモネ「…それは嬉しいことだな。誰から、その方法を教えてもらったのだ?」
リリィ「パエルが重い病気にかかってしまった時にね、私は行商人から一冊の本を買ったのよ。本を開いた瞬間、目の前に神様が現れたわ…。”彼”は街の子供の命を代償に、私たちに救いの手を差し伸べてくれた…」
アネモネ「違う…!それは悪魔の甘い誘惑だ。神は…見守るだけだ…!」 吸血鬼は懐のエリザのペンダントを握りしめ、そう叫んだ。
リリィ「————…ふふふふあははあははははははははあははははははははあははは。神様が教えてくれたわ。私たちはもっと幸せになれるって…。パエルが元気になって、あの人も戻ってきてくれるって」
アネモネの言葉など聞こえてない様子で。リリィは笑いながら、血の涙を流しながら、叶わない夢を願い続ける。
リリィ「そのためにはもっと死肉が要るの。私の願いを叶えるためにはもっと、もっと、もっと!!!!だからあなたも…。うふふ、怖くなんてないわ。…優しく喰べてあげるから…。ねえ、冒険者さん…あなたも私の一部になりましょう?」
そうリリィが微笑んだ後、複数の触手がアネモネに襲いかかる———!だが、吸血鬼はその場から動かずにマントの裾を掴み、優雅になびかせた。すると、激しい炎が広がり、触手を真っ黒に灰へ変えていく。
リリィ「あ、あああああああああああっ!
悲鳴を上げて怯むリリィへ、吸血鬼は大剣を構えて跳躍した————!


子守歌が途切れ、屋敷に沈黙が訪れた。呟きを漏らし崩れ落ちるリリィの姿に憤るように、張り巡らされた触手たちが醜悪な動きで這いもがいている。
リリィ「屋敷の奥…魔導…書……お願い…燃やして…」
弱々しく掠れた声であったが、リリィは確かに吸血鬼を見つめて言った。彼女は儚く美しく…けれど、最後に力強く。刃の尖端を自ら胸深く押し込んだ。
アネモネ「っ!」
飛散する鮮血の中、頽れる身体…。金の髪は老人のように白く変わっていき、柔らかな肌は干からび…そして、骨すら残さず。塵へと崩れていく…。押し潰されそうな苦しさ、悲しみ、怒りを感じた。
アネモネ「…」(今だけは…彼女のために)
吸血鬼は心の内で静かに祈りの言葉を呟いた。

 

~忘却に沈む彼の丘~
まるで別世界に迷い込んだかのようだ… 吸血鬼はそう思った。

無機質で広大なこの空間において、あなたの意思や希望など何の価値もなく、人は盲目的な運命に嘆き、ただただ翻弄されることしかできない…。
夜の霧の中心で、《託宣なき月》が咆哮を上げた。月を四分割する巨大な影が、明滅する炎とともに吸血鬼の身体を覆い尽くす。
ノイエルを狂気に包み込み、歪んだ形でリリィの願いを成就させた外なる神の一柱。事件の元凶が漆黒の空を浮遊し、物言わぬ奇怪な単眼でこちらの様子を窺っている。


アネモネ「貴様など…っ!!」
憎悪に染まった赤い目で、異界の神を睨んだ時———。仄かに差し込む光から、優しげな子守歌を聴いた気がした…。
アネモネ「リリィ… すまんな。我を忘れるところだった」
そう、明けない夜など無く、雪の街の悪夢も終焉を迎える時がやってきたのだ。吸血鬼は大剣を握りなおし、強い意志とともに呪文を唱えた。英雄…聖なる盾…死神との契約… 力が満ちていく…!


アネモネ「ふはははははははっ!麗しい我を見よ!」
混沌の力が宿った瞳に見つめられて、異界の神はおぞましい奇声を上げた。
アネモネ「素晴らしいであろう。人の感情の渦は!悲しみと怒り…それが、我が力となる。貴様が人々へ与えたものだ」
吸血鬼は高らかに笑いながら、混沌の力を操り。異界の神を近づいていく。


アネモネ「ははははははっ!我が混沌の渦に飲まれよ!」
力を放とうとした瞬間、異界の神は不快な音を響かせ、吸血鬼の目を見つめた。
アネモネ「ぬぐっ…!?」
視界が揺れ、辺りが急に遠ざかったかのようにぼんやりと見える。吐き気と頭痛がし。苦痛に瞼を閉じると、闇の中にとても懐かしく感じる人物が見えた… 混濁した意識が見せる幻なのか?月光を思わせる柔らかな巻き毛、芯の強さを秘めた青い目。遠い昔に忘れてしまった名前で吸血鬼に親しく呼びかけている… 知ってるはずなのに、答える言葉が出てこない。
アネモネ「我は…私は誰だ…?」
戦いなど忘れてしまったように、呆然と呟き。手の平から剣の柄が落ちそうになる… だが、微かに聞こえた首飾りの鎖の音に懐にしまっていたペンダントの存在を思い出した。
アネモネ「我は… エリザとの約束を果たす…!それだけだっ!!」


吸血鬼は混沌の渦の魔法を詠唱した。ボールは託宣無き月『ラゴゼ・ヒイヨ』に命中し 混沌の渦に吸い込んだ。 異空間に亀裂が広がっていく———…。
耳をつんざくような断末魔が、異界の空に響き渡った。光の粒子を撒き散らし、ぐずぐずと体躯を腐らせながら、ラゴゼ・ヒイヨが消滅してゆく…。雪原の館を死と狂気で覆い尽くした異界の神の、それがひどく呆気ない最後の姿だった。
“門”の消滅とともに崩壊を始める空間。幽世から現世へ…。なめし皮のような光沢を放つ黒が、コバルトの夜空の色を取り戻す。


——Schlafe.schlafe.holder.suBer Knabe(お眠りなさい かわいらしい子よ)——
——leise wiegt dich deiner Mutter Hand;(私の手があなたを静かにゆすっている)——
——sanfte Ruhe.milde Labe(穏やかな眠り 柔らかな安らぎを)——
——bringt dir schwebend dieses Wiegenband…(このゆりかごは揺れて あなたに与えている)——

途切れることなく静謐に響く、母が歌う寂しがりやの少女のための子守歌…。長い長いノイエルの夜は終わりを迎え、霧がもたらす悲劇も幕を閉じる…。
アネモネ「…」(街に災いをもたらした邪教の魔女としてリリィの名は残っていくのだろうか… 我は忘れぬ。彼女はいなくなった夫を愛し続けた貞淑な妻であったと、娘のパエルを守ろうと、けして諦めなかった母だったと…)
晴れ渡る星露の向こうにあなたは一瞬、寄り添う親子の姿を垣間見た気がした…。

 


アネモネ「もうすぐ夜明けか…」
吸血鬼はそう呟きながら、約束どおりペンダントを身につけようとしていた。カチと鎖の留め具をはめた瞬間——夜の深い青、朝を告げようとしている温かな赤、光と闇が混じり合う狭間にある紫…まるで今の空の色を映すように深紅の石が輝いたように見えた。だが、下僕たちがいる街へ急ぐ吸血鬼は気づくことはなかった。

 

 

*レクイエムのキリエ「救憐唱」「憐れみの賛歌」とも。憐れみ深い神への賛歌、あるいは罪人が憐れみを乞う歌(Wikipediaより)

ラゴゼ・ヒイヨは接近すると狂気の瞳で朦朧&不安定状態にされてしまうが、混沌耐性0なので、混沌の瞳と混沌の渦で遠距離攻撃していれば勝てる(混沌属性追加攻撃付き武器でもいけるかな?)沈黙の霧でよく魔法を封じられているのはMMAhのAI変更の影響だな。
アネモネはRP的に暗黒の矢、地獄の吐息、混沌の瞳、混沌の渦、ファイアボルドを鍛えているので、今回ソロ討伐へ向かったが… 実はLV上げで混沌の瞳のストックが少なくて、混沌の渦で一気に片づけようとして近づいてはねうねう状態になり、わりとグダってしまった。