レファナは自分が夢を見ているのだと気付いた。目の前にいる白髪赤目の少年は出会った頃のサイモア皇子だからだ。なら、これから言うことは昔の再現だ。
レファナ「…触るな。どの道、もう半分は死に体だ…。このまま静かに眠らせてくれ…」
サイモア「そういう訳にはいかないよ。私と君はもう言葉を交わしてしまった。見て見ぬ振りをすることなど出来ないし、それに君はひどく寂しそうだ…。そうやって、ずっと一人で気を張り詰めてここまでやって来たのかい?」
レファナ「…出会ったばかりのあなたに何が分かる。もう何もかもが手遅れだ…。当たり前の温もりが有った居場所には戻れない…守りたかった約束を果たすことも出来ない…。いくら探しても、私にはこれから先を生きていく理由が見つからない…」
ギルド抗争に巻き込まれて死んだ母。他を圧倒する力があれば思い、《支竜の水晶》を使おうと思ったが… 父はそれを反対し。刃を交え、互いに深い傷を負い。後で知ったことだが、父はその時の傷が元で数年後、亡くなったらしい…。そんな事件を起こした自分への信頼、いつか妹と一緒に引き継ごうと約束したギルドマスターとしての資格も失った。
レファナ「この世界は、理不尽だ…。望もうと望むまいと、掌中にある希望を奪い去っていく。私はただ、大切な家族を二度と失いたくなかっただけなのに…。その選択が間違っていたのだとしても、私にはそれ以外を選ぶことなど出来なかった…」
サイモア「…奪われた者は搾取することの愚かさを知り、傷つけられた者は迫害の痛みを知っている。悲しみに囚われ閉ざされた君の瞳は同時に誰よりも優しい慈愛の光に満ちているように私は思うよ。それにね、大切なものを守ろうとした君の選択は、絶対に間違ってなんかいなかったさ」
レファナ「何、を————…」
サイモア「さぁ、立って。帰る家がないというなら、これからは私の隣が君の居場所だ、傷ついた羽を癒すには暫し時間が必要だろう。今はゆっくり休んで、もう一度羽ばたく力を取り戻せばいい」
レファナ「———待って…」
サイモア「?」
レファナ「これから仕える…主の名ぐらい聞かせてほしい…。私はレファナ…。この名以外何も持たぬ身だ。剣として、影として、如何ようにもあなたの好きに使え…」
サイモア「私は————…」
その名前を…。私は一生忘れることはないだろう。八年前の雨の日、己の身命を賭すべき主君に出会い、騎士として第二の生を得た。
そう…。差し伸べられた暖かい手を握り返したその日から、彼が新たな私の生きる理由になったのだ。
瞼を開くとそこには誰もいなかった。サイモア皇子も、妹のフレイも、冒険者たちの姿も… けれど、周りに散乱した瓶、焼き焦げた床、固まった血が付いた大剣、そして銃弾で穴が空いた己の衣服。先刻まで戦っていたことは確かな記憶だった。けれど傷は癒えており、おそらく手当したのはあの冒険者たちなのだろう。
レファナ「…事件の首謀者に止めすら刺さず去るとは…。とんだ変わり種のお人好しか…頭がおかしいのか」
あの幼い少女は、見た目どおりの存在ではないのだろう。笑いながら戦うなど、度し難い言動だ。けれど、とても生き生きとした眼をしていた。
レファナ「…サイモア様…私は、一体どうすれば良かったのでしょう…。生きる術を見失い、このような醜態を晒す私は、もう貴方の家臣たる資格すらないのでしょうか」
思い出すのはサイモア皇子がヴァリウスに後を託し、姿を消す前にした会話…。
彼にとっての心拠り所、希望だった2人。エリシェは火事で死に。絶望したヴェセルは消えてしまった。サイモア皇子はとても不安定な状態になり。心配した兄皇子に散歩を誘われて出かける際、レファナは嫌な予感がした。崖から景色を眺める兄の背後を近づくサイモア皇子を止めることはできなかった。
兄を殺してしまったと苦悩するサイモア皇子を宥め、あれは事故だったと説き伏せた。殺害を疑う者や、第一王位継承者となったサイモアを狙う者も黙らせるために殺した。自分のその行動はサイモア皇子の心を、更に傷つける要因になっていたのだろう。
サイモア「私に拾われてしまった事が、君のそもそもの不幸の始まりだったかもしれない。せめて全てが片付いた後は、自分の思う通りに生きるといい」
レファナ(———違う…。違うのです、サイモア様…。私は優しくなんてない、まして不幸などでも…)
夢をきっかけに思い浮かんでは胸を締め付けるサイモア皇子の言葉、寂しげな眼…
レファナ「どうしてあの時、私を共にお連れ下さらなかったのですか…サイモア様…」
アネモネ「この世界がどうなろうが…そんなことはどうでもいい!我は欲深いのだ。欲しいのは我の幸いだ。愛しい存在が側にいることだ!」
ふと、意識を失う前に聞いた冒険者が言ったことを思い出す。なんて傲慢で、迷いがない言葉だ。己の幸い…愛しい存在、亡くなった母、偉大な父、可愛い妹、そして…
レファナ「…そう、だな。ずっと前からそう思っていたのに。私の本当の願いは…サイモア様のお傍に…」
生臭い死臭とともに、悪鬼の咆哮がアセリアの海溝を鳴動させる…。けたたましい羽音の中、巻き起こる突風。洞窟の深淵へと辿り着いた吸血鬼たちの眼前に、ゆっくりと巨大な影が浮かび上がった。
浮遊する上肢、甲殻と見まがう黒灰色の鱗…。禍々しくも幻想的な、神話の中でのみ存在を許される筈の生物が再びティリスの大地に降り立とうしている。
アネモネ「おお、かっこいいのである!良いな良いな。我も大きな翼で空を飛びたいのである」
エリザ「当たり判定が増えて、すぐミンチされると思いますわよ」
アネモネ「そ、それでもロマンがあるのであーる!」
フレイ「アネモネ…!無事だったか…!」 体力が回復したフレイが吸血鬼のもとへ駆け寄って来た。
アネモネ「ははっ。我らを追いかけてくるとは元気なお嬢さんだ」
フレイ「———…これが腐泥の竜…。こんなものを見せられて、大人しく指を咥えている訳にいかないな。私の剣がどこまで通用するかは分からないが、助太刀させてもらうぞ」
アネモネ「それは頼もしいであるな!だが、ジルがすぐにやっつけてしまうと思うぞ」
フレイ「?」
アネモネ「こやつの音耐性は0!0!0!であるからな!ふはーはははっ!」
ジル「わぁーい♪面白い勢いでHPが削れるのですです♪ ふふん、僕の魔法がすごいところを見ててくださいね!マスター♪」
アネモネ「ジルの魔法はいつだって素敵だぞ!だが、今回は格別に素晴らしいのである!ふはははははははははっ!!」
ジル「マスターが僕を、魔法を見て、褒めてくれるなんて…!ふひ、ふひぇふへへ~♪ひーっひひひひひひひひひっ♪」
フレイ「私もこんな風に強く…まずは笑い方から」
エリザ「ならなくていいですわよ!フレイさんっ!今のあなたで良いですわ」 少女は必死な表情だ。
フレイ「…す、すまない。ついノリで…地道に努力するとしよう」
ボールは腐泥竜《ガトランティス》に命中し 聴覚を破壊し殺した。
アネモネ「よくやった!ジルよ。ご褒美になでなで…いや、たまには違うお願いをしてもいいのだぞ」
ジル「ちがうもの…?……僕はマスターのなでなでが良いですです」
アネモネ「ほう?」
ジル「僕はマスターが大好きですです。マスターが側にいて、マスターが確かに存在している感触を、温かさを感じられることが僕の1番の幸せ…。それを奪う奴がいたら絶対に許さない…!ですです」
アネモネ「そうか…ふふふっ。いっぱいなでなでして、抱きしめてやろう。愛いやつめ♪」(まだまだ子供であるな~。…ま、いつかは独り立ちするだろう。いまいち想像できんが)
改めて見たら、ほぼ瞬殺だなー
低い唸り声が響く。尾を落とされ、四肢を砕かれた怪物は、それでもなお、獲物への殺意を失ってなどいなかった。竜の咢へ高密度のマナが収束していく。渾身の力を込められた灼熱の吐息が、凶悪な輝きを放ち吸血鬼たちとフレイへ向けられた————…
風切り共に、鋭い刃が翻る。甲殻の砕ける奇妙な音が鳴り響き、瞬間、魔竜の首が胴体から一息に刎ね飛ばされた。制御を失った竜の身体が、藻掻くようにのた打ち、海溝の闇へ落下していく————…
フレイ「姉、さん…」
レファナ「よく頑張ったな、フレイ…。本当に立派な剣士になった…。父様や母様が生きていればきっと私と同じ事を言うのだろうな。…お前は、私たち家族の誇りだよ」
そう妹に話すレファナはとても優しい、慈愛に満ちた微笑みを浮かべる姉の顔をしていた。
レファナ「そして———…これで先ほどの借りは返したぞ、常闇の眼を持つ冒険者。癪には触るが、妹を救ってくれたこと…ひとまず礼を言っておこう」
アネモネ「先刻より、とても美しい顔だな。その方が良いぞ」
レファナ「…気障な奴だ」
吸血鬼には皮肉的な笑みを見せ、レファナは去っていく。フレイは今にも出そうな涙と言葉を堪えた、引き留めれば事件の首謀者である姉を捕まえることになってしまう。きっと処刑されるだろう。だから、暗闇へ消えていく姉の後ろ姿を見つめ続けた…
~数日後~ ポート・カプール近傍の岬~
フレイ「……。君には、本当に感謝している…。改めて礼を言わせて欲しい。君の協力がなければ、”竜”の暴走を食い止めることも、事態をこれほど早く終結させることも不可能だったろう。————私も…残されたたった一人の家族を失わずに済んだ…」
戦士ギルドマスターは隣にいる吸血鬼にそっと本音を零す。あれからパルミア政府によるレファナとその部下である暗殺ギルドメンバーの捜索があった。だが、未だその足取りは掴めていないらしい。
フレイ「…きっと、サイモア皇子の消息を追っているのだろうな。姉さんは一度決めたら良くも悪くも真っ直ぐな人だから。ふふっ…それにしても、惚れた男のために世界まで滅ぼそうとするとは…。全く恐ろしい女性(ひと)だ…レファナ姉さんは」
アネモネ「確かに素晴らしい女性であったな、そなたの姉は。また戦ってみたいものだ」
フレイ「八年前、姉さんが私に言ってくれた言葉で思い出せないのがあってな…。あの海底洞窟の一件の後、なんとなくだが思い出せた気がするよ。なんのことはない。ただの当たり前の台詞だった。家族として、互いの絆を確かめ合うための、とてもありふれた言葉…」
レファナ「フレイ、私はいつまでもお前を見守ってる…。例え何か事情があって、将来離れ離れになったとしても、この空の下で、私はいつでもお前の幸せを願っているから…」
フレイ「さようなら、姉さん…。また再び出逢える日まで、私も姉さんの幸せを願っているよ」
微笑みとともに少女の声が蒼暝の海へと吸い込まれていく。青空の下に響く歌…。海鳥の声と風の音は、祈りのように空へ消え、光とともにアセリアの大洋に降り注ぐのだった———
来月から月2更新になります。ノヴィスワールドはシナリオ、キャラ描写がボリュームたっぷりで楽しめるのだが、それらを記事にまとめる→自キャラのRP会話部分を書く→誤字、文章の見直しで、けっこう時間を使うのでねー
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