クレイモア吸血鬼の旅行記114 無性の癒し

elonaプレイ日記踊れ月光『アネモネ』


眩い光と共に現れるのは金色の衣を纏った可憐な乙女。翠玉色の美しい瞳、一筋の橙色が入る、緑の波打つ長髪。雲のようにふわふわとした重量感のある大きな翼と、小さな翼のような耳が印象的だ。彼女は…癒しのジュア。女神だ。”願い”に答え。皆が望む姿を形成し。地上の生き物と同じ肉の身体を得て、降臨したのだ。



ジュア「…?」
癒しの女神は呼び出した定命の者を探して、周りを見回す。色鮮やかなステンドグラスの光に照らされる、ドーム状の広々した空間。壮麗な装飾をされた建物内部は、どこか神聖な雰囲気が漂う。ここは人間たちが祈る大聖堂なのだろう。熱心な信者に呼び出されたのかな…?そう考えていると、ジュアは視線を感じた。
黒髪の長身の男が鋭い目でこちらを見ている。片手には貴重品の願いの杖が握られており。女神を呼んだ召喚者なのだろう。だが…その瞳に宿るのは神への敬意でもなく、高揚でもなく。けれど、無関心でもない。揺らめく炎のような瞳は、激しく燃えているような…静かに、灰へと燃え尽きているような…複雑な赤色だ。

緊張した沈黙の中…男は口角を上げて笑う。僅かに開いた唇の間から、長く尖った犬歯が見える。普通より長いと片付けるには異常に長く。まるで攻撃や威嚇するための武器だ。男は挑発するように牙を見せながら、一歩、踏み出し。怯える女神に近寄ってきた…。ゆったりとした歩みは優雅さがあり、敵意は見えない。だが、なぜだろう。狙った獲物を逃がさないように、そっと近寄る肉食獣のイメージが思い浮かぶ。下手に動いたら、一気に喉へ噛み付かれそうな…ジュアはそんな恐ろしい想像をしてしまった。

ジュア(か、帰りまーす…はダメだよね。それになんかちょっと怖い雰囲気なだけで、大丈夫大丈夫…私は癒しのジュア!定命の者に癒しを与える女神だもん!)
女神の威厳を保とうと、ジュアは下へ向きかけた顔を上げる。だが、翠玉色の瞳は呆然と丸くなる。それは、すぐ目の前に立っていた。黒い闇が視界を覆う…ああ、もう限界だと。女神は声にならない悲鳴を上げた。

ジュア「~~~~~~~~~っ!!!!」

 

~自宅~


エリザ「おはようございますわ」

マリー「おはよう。エリザ」

ジル「お姉さま、おはようですです~」

ドラクル「おはようございます。ちょうど紅茶を淹れたばかりですよ」

エリザ「うふふっ、ありがとう。朝からラッキー…と言いたいのですけど。あのひとの姿が見えないですわね?まったく…すぐふらふらと、どこかに消えて」
そう呟きながらエリザは、マリーの隣に座る。この面々では気が合うのもあって、ごく自然に隣にいることが多い仲でもあり。そして、エリザにとって知りたいこと…アネモネについて、よく知っている相手でもあるからだ。

エリザ「…昨夜はあのひととお楽しみでしたわね?」

マリー「ぶふぇっ!!?おえっ…はぁはぁ…。な、何を言って……」
とんでもない一言に動揺し。噴き出した液体を拭うマリーに、エリザは教えるように己の柔らかな唇に人差し指を当てる。

エリザ「お・さ・け、くさいですわよ」

マリー「…あ。その…昨晩に。少しだけ、アネモネと一緒にな…」

 



アネモネ「神に会ったら何をしたい?」

マリー「…急にどうしたんだ?」

アネモネ「ただの酒の席での与太話だ。お前はどうする?何か願い事でもするか?神話の英雄のように力試しでもするか?それとも…嘘だと存在否定するか?」

マリー「………無病息災でもお祈りするかな」

アネモネ「無難だな」

マリー「目の前に現れたら凄い!と思うだろうけど。それで何をしたいと言われてもな…」

アネモネ「…」

マリー「で、お前は?人に聞いたのなら、聞かせてくれるだろう」

アネモネ「良いぞ。ベッドの上で2人きりのダンスを踊った後に、明け方の薄闇の中での睦言に…聞かせてやろう」

マリー「酔っ払いは早く寝ろ!」

 


エリザ「明らかに少しではない量の酒瓶が転がっている…そんな光景が見えた気がしますの」

マリー「いつもよりは少なめに……いや、普通に飲んだな…」

エリザ「マリーは正直ですわね。そこが良いところですけど…大酒飲みはよくないですわ。頑張って減らしてちょうだいね。無病息災をお祈りするなら」

マリー「努力しよう…」

エリザ「それにしても、神ね…。やっぱり、挑む気なのかしら?」

ドラクル「魔女を倒しましたからね。順当でございますな」

マリー「…?」
ドラクルが発したそのワードに、他3人は奇妙な感覚がした。知ってるような、覚えがないような…。底が見えない沼に沈んでしまったモノを拾い上げようと、意識を沈めようとしたが…。それを遮るように、ぎぃ…と、扉が開く音が響いた。一瞬、静まり返った後。皆、一斉に出入口を見つめる。その注目の的となった吸血鬼は堂々とした佇まいで、視線を受け止め、笑った。


アネモネ「…うむ。あまりサプライズになっていないが…我と共に来い。皆が噂するアイドルに会えるぞ」

エリザ「あいどる??」

 

~ダンジョン-住宅地区-~


アネモネ「ご照覧あれ!これぞ、地上に舞い降りた奇跡の乙女。万物に癒しを与えし女神…ジュアである!」

ジュア「あ、こんにちは。癒しのジュアになります…」
少し緊張した様子で挨拶したのは女神だった。《癒しのジュア》。イルヴァ7柱の神として、古き時代から今に至るまで、その名が知られる、大いなる存在…のはずだが。彼女は翼を小さく折り畳んで、ふわふわのぬいぐるみが同席するソファーに座っていた。温かいミルクが入ったカップを片手に、クッキーを頬張っている。

マリー「え?えっと…こんにちは」(確かにアイドル(偶像)だ)

アネモネ「ジュアよ。そこは両手でハートを作り。我が考えた口上を言いながら光り輝き、ジュアー!と叫んで飛んで、屋根を突き破る段取りであろう」

ジュア「や、やらないよ!そんなこと…!!」

エリザ「…あの。すごく日常的な場所にジュア様がいるのですけど。他に、場所があったでしょう。大聖堂とか」

アネモネ「ぬう…。最初はそこだったのだが…少々脅かしてしまってな。落ち着く場所に移動してもらったのだ」
どことなくファンシーな部屋は、今回初登場となるフルアーマーメイド長ムーノーツの家だ。彼は嬉しそうにガシャンと敬礼している。

ジュア「あ、あーっ!その、ちょっと驚いただけだから!胸が視界を埋めて真っ暗で混乱して…そんなことで腰抜かして泣くなんて、情けないことしてないから…その」

エリザ「胸…?」

アネモネ「いやぁ、戯れにショートテレポートを使ったら、ちょうど目の前に立ってしまってな…。わざとではいたたたたたたたたたたたたっ」

エリザ「…ごめんなさいね、うちのひとがご迷惑をかけてしまって」

ジュア(気を使われている…!定命の者に…!)
ショックを受けたようにジュアの羽耳は上に向かって伸び。すぐに下へ落ちた。言葉が無くても、誰もがわかるだろう。女神は落ち込んでいると。

アネモネ「…菓子が無くなったな。さすが我の手作りクッキー。女神が夢中になるほどの美味だ。すぐに新しいのを作ろう」

ジュア(んん、口の中で甘みがとろける………)
本当にすぐ出されたクッキーの山に、ジュアは無意識に手を伸ばしていた。1枚食べて、もう1枚も食べて。時に2枚も指に挟んで*もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ*と、止まらない!やめられない!

ジル(クッキーモンスター…)

ジュア(…ハッ!お菓子に逃避してないで。お仕事がんばらなきゃ!)
メンタルが癒された癒しのジュアは立ち上がり。凛とした一声を放つ。視界の端に完食して空になった皿が見えたが、見なかったことにする。頬に菓子の欠片が付いている気がするけど、それは後で恥ずかしさに後悔するだろう。

ジュア「こほん……定命の者よ。私に何を望む?」

アネモネ「神殺しだ」

ジュア「え?……ええっ!?」

 


金色の両翼を広げた女神は、華奢な手と手を合わせる。すると…眩しい光が手の平の間から溢れ、白銀の槍が出現した。それは《ホーリーランス》と呼ばれるアーティファクト。癒しのジュアを信仰する者なら、誰でも入手できるアイテム。しかし、彼女が持つのはオリジナルの《ホーリーランス》だ。実は与えられる《ホーリーランス》はこの真なる《ホーリーランス》を真似て作り、劣化した量産型なのだ。

アネモネ「おお、なんと立派な長物。それを振るう可憐なお嬢さんに激しく貫かれるのも」

エリザ「あなた…もっと頬をつねられたいの?」

アネモネ「エリザの指になら、いくらでも…我の身体を攻めても良い」

エリザ「な、な…女神様の前で何を言ってますの!ばかー!」

ジュア(はわわわ…)


吸血鬼は複数のポーション瓶を取り出し、一気に飲み干す。英雄+64、トロールの血+64、元素耐性+64、防衛者+64、加速+64…PV487→1221、速度336→1469と爆発的に能力が上昇する。

アネモネ「ふふふ、ははははははははははははははっ!!刮目せよ!これが強化ポーションの力だ!ふはーはははははははははははははははっ!!」

マリー「とんでもない上昇だな…」
驚きに目を丸くしながら、マリーはジッとアネモネを見つめ。そして、おもむろにアネモネの腕を掴み、揉んだ。

アネモネ「…なんだ。急にベタベタ触りおって、気持ち悪いぞ」

マリー「いや、身体は細いままなんだな」

アネモネ「当たり前だ。魔法効果が身体の表面に見えないベールのように覆っている状態で、肉体には変化は無いぞ。…それに影響があったら、恐ろしい光景になるだろう。我は嫌だぞ。マッチョな下僕共に囲まれるなど」

マリー「筋肉はあった方がいいと思うぞ。お前…細いし」

アネモネ「余計なお世話だ…ところで、いつまで触ってるつもりだ」

マリー「うん?もう触ってないぞ」

アネモネ「ぬ?」
背中を撫でる指の感触に、ぞわりと鳥肌が立つ。一体誰なのか…知りたくない嫌な予感がするが、気にしてしまった以上、見なくてはならない。アネモネは振り向いた。

ドラクル「申し訳ございません。お嬢様。私も好奇心に駆られましたので」
そう謝罪し。ドラクルはアネモネを触っていた方の白手袋を外し、懐にしまう。そして予備の白手袋を取り出し、新しくはめ直した。

アネモネ「そ、そうかー…そなたもそういう時もあるよな」(なぜ………いや、深く考えないでおこう)

 


アネモネ「全員飲んだな?…さて、ジュアよ。待たせてしまったな。これからたっぷりと楽しませてやるぞ」

ジュア「来なさい!定命の者たちよ」(…私、癒しの女神なんだけどなぁ。でも、これもまた定命の者が求めることなんだよね?うん、頑張ろう!)
健気に宣戦布告を受け取る女神に、吸血鬼はにやりと笑って、混沌の瞳を詠唱する。放たれた矢は《癒しのジュア》に命中し。それが戦いの合図となる。はじまる、終わりへの戦い。神殺しの戦いが———!


《癒しのジュア》は幻影の光線、暗黒の矢、眠りの手、治癒の雨、聖なる盾、沈黙の霧、鈍足、ジュアの癒し…と様々な魔法を操る。女神は無慈悲に沈黙の霧を唱え、魔法使いジル、PTの回復役を担っているエリザの魔法を封じる…!

エリザ「…っ!」
しかし、2人は焦らずに浄化の杖+2を振った。エリザは聖なる衣に保護された。それは全浄化を発動する魔道具。全浄化は魔法による呪いを解除し、更には短い間ホーリーヴェイルを発動することが出来るのだ。

ジル「くひひひひひひひひっ!!マスターが渡してくれた浄化の杖で、そーんなものすぐ消せるのですよー!あっひゃひゃっひゃっひゃっ!!!」
哄笑しながら、ジルは轟音の波動を放った!ボールは《癒しのジュア》に命中し。軽い傷を負わせた。5082

ジュア「ひえぇ…」(なんか豹変してて恐い…。それに…)


《癒しのジュア》は抵抗した。《癒しのジュア》は抵抗した。《癒しのジュア》はぼやけた霧に覆われた。《癒しのジュア》は抵抗した。《癒しのジュア》は抵抗した。《癒しのジュア》は抵抗した。

ジュア(攻撃されるたびに沈黙の霧がかかってくる…!?)

エリザ「すごい…神に沈黙の霧が効いてますわ」

アネモネ「ふふ。沈黙のポーションを直接投げても、効かぬなら。武器に塗って、ひたすら殴って殴っての数の暴力で黙らせる作戦…略して、わからせちんちn」

エリザ「あなた…」

ジュア「は、破廉恥~~~~~っ!!」


スウォーム!《癒しのジュア》に『聖なる槍』で刺された。アネモネは悲痛な叫び声をあげた。

アネモネ「ぬわー…痛いであるな」

エリザ「ふざけたことを言うからですわよ」

アネモネ「しかし、今の我ならば、耐えられるのだな。素晴らしい」

エリザ「ギリギリの瀕死でしょう!貧弱なんだから、もっと離れた場所に移動してちょうだい」

アネモネ「う、うむ」(貧弱…マリーの言うとおり、少しは筋トレしておくか)
吸血鬼は素直に2歩ほど、《癒しのジュア》から離れた。


戦いは吸血鬼たちの有利に動いていた。《癒しのジュア》は沈黙で魔法を封じられ、時に麻痺や混乱で行動を阻害される。《ホーリーランス》を振るうが、強化ポーションでPVを大幅に上げた吸血鬼たちは耐え切り。治癒の雨で態勢を整える。《癒しのジュア》は追い詰められるように、徐々に壁際へ移動していき…


マリーは魔法を詠唱した。ボルトは《癒しのジュア》に命中し 軽い傷を負わせた。猫の像は粉々に砕けた。

マリー「あ」

エリザ「猫が猫が猫が猫が猫が猫が猫が猫が猫が猫が猫が猫が猫が猫が」

アネモネ「エリザに謝るのだ。後で弁償せよ」

マリー「すまない。本当にすまない…!なんでもする…!」

エリザ「…あら、そんなに怯えないでくださる。新しい猫の像と…ケーキで許しますから。苺とクリームがたっぷり乗った可愛いホールケーキを作ってちょうだいね」

マリー「アネモネ、私のためにケーキを作ってくれ」

アネモネ「なぜ我に飛び火が」


ジュア「…」(定命の者たちが楽しそうで、嬉しいなぁ…)
女神は慈愛に満ちた微笑みを浮かべる。けれど、最後まで定命の者の期待を応えようと《癒しのジュア》は全力で戦う。そして、ついに———

ボルトは《癒しのジュア》に命中し焦げカスにした。

ジル「わーい!やりました!僕、やりましたよ!マスター!!」

アネモネ「うむ。えらいぞ」
そう言って、アネモネはジルの頭を優しくなでなでした。

ジル「えへへ、うぇひひひひいひひひひひひひひひひひ…」

エリザ「うふふ。神を倒すなんて…私たち、冒険者として凄いところまで来てしまったのね」

ドラクル「そうでございますな。お嬢様と皆さんが過ごした日々が重なって、ここまで来れたのでしょう」

アネモネ「ああ…我がここまで夢を見れたのは、そなたたちが居てこそだ。本当に、本当に長い旅となった…」

マリー「…」(アネモネ?)
アネモネの声は震えており。それは感動しているというより、寂しげで…。気になって、様子を見ていると、吸血鬼は大聖堂の中心へ歩いていった。眩しいほど美しいステンドグラスの光に照られる煉瓦の床。何かに見守られているような…そんな安らぎを感じる場所の手前で、足を止め。アネモネは薄闇の中に立っていた。

アネモネ「…」
いつもの吸血鬼だったら、芝居かかった所作で、真紅のマントを翻し。下僕共たちに向かって、高らかに勝利を笑うはずだ。しかし、背を向けたまま。沈黙が流れ…

アネモネ「………。これでもう…すべて終わった。我は………」

エリザ「…何を言っていますの?終わってないでしょう」
吸血鬼に近づいていた少女は、その冷えた手を握る。触れる柔らかさに温かさを感じ。うつむいていたアネモネは顔を上げて、エリザを見つめ…彼女のもう片方の手に”願いの杖”が握られている事に気付いた。いつの間にか、バックパックから抜き取られたようだ。

アネモネ「な…ぬ?」

エリザ「さあ!どんどん神とやり合いますわよーっ!」

 


祝!神殺し!しっかり対策したかいもあって、順調に勝てたなー。まあ、強化ポーションの存在が大きいけど。加速+32で挑んだら、速度差であっという間に回復されて。決着がつかないこともありましたね。
神戦はジュア様だけにしようと思っていたけど。おまけ用に他の神と戦ったら、なかなか楽しくて…ちゃんと書くことにしました。もう少しだけ続きます。

 

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