「うぐぐ…!」「うぐぐ…!」「うぐぐ…!」
アドニス「ぬ…?なんだろう…どこからか呻き声が聞こえて」
ヨウィン馬のノトはもちを詰まらせて死んだ。
アドニス「…っ!?」
ベアトリクス「おや、可哀想に。もちが原因のようだね」
ルシアン「気をつけて細かく食べても、詰まる時は詰まるらしいからな。怖いなあ~」
デイビッド「安心してくだせえ。その時はアッシが後ろから…ドスっとやりやすから」
ルシアン「はは、デイブのその言い方は別の意味に聞こえるぜ」
アドニス「…」(なぜ誰も馬がもちを食べていたことに疑問を抱かないんだ…?)
その謎は一旦置いて、いつもどおり耐久上げと宝石集めを兼ねた採掘をはじめる少年。だが、背後からミアの悲鳴が聞こえ…驚きに振り替えると、畑からごうごうと炎が渦巻いていた。
農夫「おらの畑がー!?」
デイビッド「焼畑…と思いやしたけど。農夫のおっさん、慌てていやすね」
ルシアン「…。さっき眼帯を付けた巫女服の冒険者が居たよな」
アドニス「探そう」
冒険者「あああああ~!血が…!血がうずく!我がブラッティローズが制御できない…ああ、咲き乱れてしまう…ミャ!!」
町長「うちが血まみれに…。うわああ、壁までいつもの冒険者に…もう嫌だー!!」
ルシアン「大丈夫大丈夫、3日後には直るぜ」
アドニス「…よく考えたら、その間は壁無し生活なのでは?」
ルシアン「そんなことより、早く交換しないと冒険者がまたワープしちゃうぞ」
アドニス「ぬ?そうだな」
冒険者「うぐぐぐ~!我が右目に封印されし呪われた力が発動してしまう…ミャ!」
アドニス「それは呪い装備ですよね?交換しましょうか」
冒険者「ああ~、私に近づいては…あ、はい。そうです。お願いします…ミャ」
デイビッド「変わった語尾でやすね」
ルシアン「おう、そうだなぜ」
馬もち死→冒険者モンスター召喚血まみれが連続で起こる…。と、なかなかにelonaの日常を感じたな。
アドニス「これをベア姉に装備してほしいんだ。前衛になってから、近接攻撃を受けることが多くなっただろうから」
ベアトリクス「わお、すごいじゃないか。魔法耐性が****もあるなんて!魔法使いとして魔力維持があるのも嬉しいところだね」
ミア「お姉さまがますます頼もしくなって心強いですー。ボクも譲り受けた狂気の杖を持てるように、もっと身体を鍛えたいですねー」
アドニス(ミアは非力な妖精だからな…羽の巻物が集まったら、こっそり軽くしておくか)
ベアトリクス「そっか。筋力を上げれば、果実の木や噴水を取れるようになれるし。応援するよ」
ミア「はい!筋力ぅ、筋力がすべてを解決するのですー!」
アドニス(いや、モージアをたくさん集めるべきか…?)
ベアはそれなりにHPがあるとはいえ、わりと重傷まで削られることが多いですね。もっとPVを上げたいところだ。
歴史に残る名演だ!合計 1,753のおひねりをもらった。アドニスは演奏の技術の向上を感じた。
アドニス「うむ」
少年は誇らしげに微笑み。喜びを分かち合おうと、肩に乗っているミアを見ると…ミンチ肉があった。
アドニス「え?」
デイビッド「こりゃ運が悪かったでやすね。あの赤髪の男は音楽にうるさいと有名なんすよ」
ミア「ふええぇ…とっても可愛い妖精さんにこんな仕打ちをするなんて、あの〇〇〇〇〇〇〇〇!!性格悪いですよー!」
アドニス「…ミア?」
ルシアン(どこでそんな言葉を覚えて…)「いやー、ほんと赤髪はろくでもないな。突然現れたり、偉そうで、語尾が”ですです”と変な口調な奴が居たり…」
ジル「…それはつまり僕の事ですか?」
ルシアン「わぁ…聞いてた?」
背後から聞こえる冷え切った声にルシアンは振り返る。そこには半眼でこちらを睨む赤髪の青年…ジルが立っていた。先刻の話どおり、空間転移で突然やってきたのだろうが…あまりにもタイミングが悪かった。
ジル「はい。僕のことをどう思っているのかよ~くわかりました。マスターに育てられた僕にそんな口を叩けるほどの自信もあるのでしょうね」
アドニス「ジル兄、その…」
少年はよく知っていた。かつて冒険者だった父から聞いた物語の中で活躍する彼は…伝説のドラゴンや恐ろしい未知の怪物、そして異形の神を…。父と共に倒すほどの凄腕の魔術師であると。ルシアンは確かに強いが、あくまでもアドニスたちの中ではの話だ。もし戦ったら、ルシアンは確実に負ける。そう考えたアドニスはなんとか場を収めようとしたが…突如として足元が光り輝いた。眩しさに目を細めながら下を見ると、光の線がちょうどアドニスたちを囲むように円を描いており。どう考えても、それは魔法陣であった。
ジル「いってらっしゃい」
その一言と共に、アドニスたちの姿は消えた。
アドニス「ここは…転移魔法で飛ばされたのか?」
ルシアン「まったくキレた奴だぜ。アドニスたちまで巻き込むなんて…とにかく。この危険な状況をどうにかしないとな」
薄暗い闇の中から聞こえる…荒い鼻息と、カサカサと響く足音。ガグと吸血蜘蛛だ。そして、よく見るとシュブ=ニグラスも潜んでいる。ガグは弱体化の手でステータスを下げ、シュブ=ニグラスは狂気の眼差し、モンスター召喚、ショートテレポートで翻弄する厄介な敵だ。
ミア「ふふん。どいつもこいつも、倒したことがある奴です!数が多くても、ドニちゃんたちなら大丈夫ですよー!」
アドニス「そうだな。俺たちなら、なんとか出来るだろう」(……だが、何か。今まで無い。嫌な予感が)
アドニス「ぬぅ…ぬぅおー…?」
ミア「ふええ~っ。ドニちゃんが壁に頭を擦りつけているのです~」
ルシアン「うげ。イスの偉大なる種族も居るじゃねーか!」
そう言い放ったルシアンはすかさず触手の化け物に接近し。拳を叩き込んだ。素早く交互に繰り出されるワンツーパンチによって、イスの偉大なる種族はミンチとなった。
ルシアン「う~ん…まだまだ殺気を感じるぜ。…ごめんな。俺の発言のせいでこんなことになってしまって」
アドニス「いいや、お前を野放しにするなんて…その、心配だからな。これでいいんだ」
ルシアン「アドニス…!俺たちはズッ友だぜ~」
アドニス「…何言ってんだ」
ベアトリクス「くっ」
交差する槍と斧。しかし屈強な肉体を持つミノタウロスにベアトリクスは押されつつある。回復魔法を唱えようにも、狂気の眼差しによって混乱詠唱をし。制御されなかったマナが分散し、MPがほとんど無い状態だ。
ベアトリクス(倒される前に倒してしまえばいいんだけど…まだまだルシアンくんほどの力が無いからな。それは難しそうだ)
アドニス「…ベア姉!」
アドニスは癒しの手+1の杖を振った。ベアトリクスは回復した。
ベアトリクス「ありがとう。アドニスくん」
アドニス「ベア姉に倒れられたら、嫌だからな」
接近戦ができない己でも、少しは力になれたと思い。少年は微笑む。僅かに和んだ空気が流れたが…敵はそんな遠慮など無く。容赦なく襲ってくる…!
ベアトリクスはイスの偉大なる種族とミノタウロスの闘士に挟まれてしまった。足に触手が巻き付き。強い握力に、肉と骨がぎゅっと潰されるように押され、肉体は激しい痛みの悲鳴を上げた。
ベアトリクス「…っ!!……まだまだぁ!」
しかし、ベアトリクスは諦めず。槍を振るい、僅かに回復したMPから魔法を放つ。そんな彼女を応援するようにアドニスは癒しの手の杖を振るい続けた。その攻防は妙に長く感じられたが、ついに…槍はミノタウロスの分厚い鎧となっている筋肉を貫通し。ミノタウロスの闘士はミンチになった。
次に、弧を描くように槍を振りかぶり。ベアトリクスはイスの偉大なる種族を突き刺した。そこにふらふらと接近するのはルシアンだ。狂気の眼差しによって意識が混濁していたが、それでも黙って見てるわけにはいかないと、触手の化け物に近づき、拳を叩き込む。槍と拳、挟撃されたイスの偉大なる種族は為す術もなく。回避することが出来なかった槍が深々と刺さった。そして、ベアトリクスは雷の矢を詠唱する。凝縮された雷の魔力が柄から刃へ流れ込み…イスの偉大なる種族はビリビリと焦げカスになった。
ベアトリクス「ふぅ…なんとか切り抜けられたね。皆には本当に助けられたよ」
デイビッド「姐さんもかっこよかったっすよ!槍でグサーッと、立派なイカ焼きになりやしたぜ」
ミア「イカ?タコさんじゃないですか?」
ルシアン(また食べ物に例えてる…)「そんなことより一旦、休もうぜ。ぶっ続けにやったら、勝てるものも勝てなくなるぞ」
アドニス「ああ、そうしよう」
近くの角部屋へ向かい。少年は壁生成で入り口を塞ぐ。これで少しは安全に休めるだろう。一行はしばし休息する。その手に武器を離さず。
ルシアン「しっかし…次から次と、凶悪なモンスターたちが出てくるなんて…。なんだかマッドな研究室っぽいけど。もしかして、あいつの?」
アドニス「…否定はできないな。城でも父上の研究室によく出入りしていたから」
デイビッド「ということは、あのモンスターたちはパパの子で。アッシの兄弟…!?」
ルシアン「え?」
ミア「その理論だと…ボクも兄弟じゃないですか?ボクの素を作ったのはジジちゃんですし」
デイビッド「な、なんだってー!?ミア嬢は妹…いや、あるいは姉さん…!?」
ミア「なんですとー!?」
ルシアン「うわー、坊ちゃん助けてー。どうツッコミすればわからん。俺を休ませてくれ!」
アドニス「知らん」
アドニス「…!?」
休息を終え、まだまだ居るモンスターを倒していた一行だったが。アドニスはぞわりと嫌な鳥肌が立った。目視したくないが、見なければならない。この恐ろしい気配を放っている正体を。嫌な予感がする方を見やると、それは居た…。陽炎のように揺らめく黒い渦の中心に立つ長身。顔に開いた穴は虚ろで、目玉は無く。けれど見られている感覚がする。よく見ると、身体すべては蠢く触手だ、ねじれた大小の触手が形作っているのだ。
ルシアン「あれは…螺旋の王!?マジか……みんな、下がってくれ。俺なら、奴の攻撃に耐えられるはず」
アドニス「…頼む」
素直にそうした方がいいと少年はそう思った。全身に感じる、螺旋の王の威圧感。そして、恐怖。奇妙な話だが、既視感があった。何度も何度も、ミンチにされたような…また悪夢の記憶なのだろうか?
けれど、離れようとするアドニスに絡みつく触手。みるみる生命力10の儚いHPを削られ。だが、このまま倒れるわけにはいかないとアドニスは痛みを堪え。回復ポーションを飲み、耐える。そこへ駆けつけたのはルシアンだ。神経属性追加攻撃がエンチャントされた拳を叩きつけ…イスの偉大なる種族は神経を蝕まれて死んだ。それを確認すると、ルシアンは柔軟に身体をひねり、弾丸のように螺旋の王の懐へ飛び込んだ———!
ルシアンは螺旋の王を殴って殺した。
デイビッド「ヒューッ!流石ですぜ、アニキぃ!」
アドニス「本当にな…。ぬ?肉をドロップしているな。よし、活躍したルシアンのために美味しく料理するぞ!」
ルシアン「え?」
少し進むと、同じ黒い影が待ち構えていた。螺旋の王は虚ろな目をこちらに向け、危険だと判断したのか。ルシアンへ混沌の瞳を放つ。
ルシアン「いってえ~…もう一体いたのか。でもまあ、さっきの奴と同時にならなかった。俺たちはラッキーだ」
しかし、彼女はタフだ。あまり気にした様子もなく。両手に拳を作り、構える。その背中は安心感を覚えるほど頼もしい。勇気づけられたアドニスたちも負けずと、螺旋の王に攻撃を加え。そして、
ルシアンは螺旋の王を殴って軽い傷を負わせた。螺旋の王の神経は傷付いた。螺旋の王は雷に打たれて死んだ。
アドニス「…?」
少年は不思議そうに周りを見回した。重々しいほどの圧迫感が失せ、まだ潜んでいるモンスターたちの殺気が弱くなった気がしたのだ。
アドニス「勘だが…螺旋の王はアレで終わりだと思う。それで楽勝と思えるほど、まだ油断はできないが」
ルシアン「俺もそう思うぜ。空気が変わった…良い感じにな」
ベアトリクス「うん、そうだね。…そこに階段が見えるけど。このままやっちゃおうか。ほっとくには危険だからね」
デイビッド「くぅぅ…兄弟たちよ。アッシは忘れませんぜ!」
ミア「ボクもです~」
ルシアン「お前ら、まだそれ言ってるの……いや、マジだったの?」
おまけがあります。まだまだ育ってないベアを前衛として戦わせるのは無理させたなーと、反省はしている。しかし、ここを攻略できることはゼーム戦もそろそろ挑んだ方がいいかもね。
~自宅~
すべてのモンスターを殲滅し。階段を登った一行が目にしたのは…見慣れたジュアの抱き枕が並ぶメインホールだった。なぜ自宅に?そう困惑するアドニスたちの前に、奥から赤髪の魔術師ジルが現れた。
ジル「おかえりなさい。死んで帰ってくると待っていたのですが…階段から来たということは倒したのですね」
ルシアン「お前、お前なぁ…よくもあんなところに……!!」
ジルのコートの襟を掴み上げるルシアン。赤いブーツのヒールが数ミリ浮いたように見えたが…すぐに地上に戻った。
ルシアン「…その、陰口を言って悪かった。ごめん」
ジル「げっ…ほ…。一瞬、僕の首を締めたことへの謝罪はないのですね…」
ルシアン「それは無い。俺たち、ひどい目に遭ったし。それより説明しろよ~、なんなんだよーあそこ!階段登ったら自宅って、意味わかんねえんだけど」
ジル「うっせえですねえ…」
アドニス「ジル兄。教えてくれないか。俺も気になっているんだ」
ジル「坊ちゃまがそうおっしゃるなら、仕方ないですねえ。あそこはザナンの研究所ですです。軍事利用が目的だったようですが…。手に負えなくなって、閉鎖したようですです。あんなもの、人間が扱えるわけがないのに」
デイビッド「良かった~。アッシは家族を手にかけたわけじゃないんすね。本当に良かったですぜ!」
ミア「ふえええぇぇ。ボクもです~~」
ジル「…あの。頭大丈夫ですです?狂気の眼差しの影響が残っているのですか??」
ルシアン「ははは…まったく気にしないでくれ」
ジル「はぁ…そうですか。僕は実験場をそのうち使おうと…片付けようと放置してたのですが。ちょうどいいので、坊ちゃまたちを放り込みました。一応、生還することを考えて。階段がここに繋がるように、魔法をかけておいたのですよ?」
アドニス(一応…なんだ)
ジル「……あ、そうだ。僕は重要なことを伝えに来たのですよ!マスター…お父様からの伝言ですです。”近々遊びに行く”と、そうおっしゃっていましたよ。坊ちゃま、嬉しいでしょう」
そう言ったジルは素晴らしい仕事を終えたかのように、達成感に満ちた笑みを浮かべ。いつもどおり転移魔法で、早々に姿を消してしまった。しばし場は静まり返り。少年はやっと理解したようにポツリと呟いた。
アドニス「………父上が?」
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