クレイモア吸血鬼の旅行記113 ノヴィスワールド-暴食の魔女 後編-

elonaプレイ日記踊れ月光『アネモネ』


それは幼い少女だったものだ。すべてを飲み込み、嚙み砕かんと大きく開いた口。ギョロギョロと動くひとつ目は飢えた獣のように血走っており。隆々とした巨大な両腕に捕まれたら、一巻の終わりだろう。その怪物の名は暴蝕の魔女《ディールミィル》だ。

アネモネ「…さて。我らは運が良い。この奇妙な空間の、ちょうど魔女の死角の場所に出たようだ。このまま後ろから近づき…先に腕を潰してくれよう」

エリザ「卑怯…って、言いたいところですけど。確かに下手に正面に出たら、危険のような…そんな嫌な予感がしますわね」

アネモネ「そうだ。あまり我の元から離れるなよ」

ドラクル「はい。お嬢様から離れません」

ジル「僕もマスターから絶対に離れません!」
そう言った老紳士と少年は吸血鬼を挟むようにぴたりとくっついた。吸血鬼が1歩進めば、ほぼ同時に1歩動く。まるでナンセンスな劇だ。

アネモネ「そういう意味ではない…」


エリザは『波動を放つ弓』を誇らしげに構えた。 エリザは《ハングリータイラント(右)》を射撃し 軽い傷を負わせた。《ハングリータイラント(右)》は引き寄せられた。

アネモネ「ぬ?なにやら、我の背後に気配がするぞ?」

ドラクル「《ハングリータイラント》でございますな」

アネモネ「それは良い。ここでミンチにしてくれよう」

エリザ「やったのは私ですけど。明らかにおかしいですわよ…無の空間に攻撃する、この絵面」

アネモネ「イルヴァの地ではよくあることだ。気にしても何もわからぬぞ。はははは」

エリザ「そう…そうですわね…」


ドラクルは《ハングリータイラント(右)》を射撃し 粉々の肉片に変えた。*ディールミィルの右腕を破壊した!*

アネモネ「よくやった!だが、一旦下がるぞ」

ジル「はーいで…はわわわわわ~~~っ」
早く主の元へ戻ろうと、気がそれた隙を突かれたか。少年の華奢な足は巨大な手に捕まれ、魔女の口元へと引きずり込まれていく。

ジル「離せ…離しやがれっ!マスターの元へ帰れないだろ!このクソクソおクソがっ!!!」
低く、激情を込めた声で、少年は轟音の波動からライトニングボルトと強力な魔法を唱える。だが、強く掴まれた足はミシミシと悲鳴を上げるばかりで。緩む気配は無く。手加減などない握力によって、骨は砕け、肉が潰れた。そのダメージに1度、ジルの息の根が止まったように見えたが、契約が発動する。けれど、拘束は解けないままだ。このまま引きずり込まれれば、魔女に食われてしまうだろう。

マリー「…っ!」
咄嗟に身体が動き、マリーはジルを助け出そうと駆けていくが。それは魔女の大口に近づく、危険な行為だ。

アネモネ「…焦りおって」
そう呟いた吸血鬼は危機に陥っている2人を無視するように背を向け、遠ざかっていく…。



マリー「あれ?」
気がつけば、マリーとジルは魔女の眼前から、その背後に立っていた。

アネモネ「紐のことを忘れていただろう。我が移動すれば、紐によって繋がったそなたたちは、我の近くにワープする…つまり、お前はマヌケという奴だ」

マリー「…そうだったが、そんな言い方はないだろう」

アネモネ「良いじゃないか。お前の素直さは好ましいと思っているぞ」

マリー「…。玩具として遊びやすいという意味だろう」

アネモネ「よくわかったな。えらいえらい」

マリー「お前なあ…」


ジル(またあんな醜態を晒すなんて…もっと頑張らないと)

 

もう片方の《ハングリータイラント》も首尾よくミンチにし。残りは本体だけ…そう気を抜くのは無理な話だ。《暴蝕のディールミィル》が放つ殺気は恐ろしく凶悪で。少しでも油断すれば、噛みつかれるだろう。そう”経験”したアネモネは、ディールミィルの視界から大きく離れた場所へ移動し。懐から、茶色の小瓶を取り出した。

アネモネ「さあ、飲むといい。我がコツコツ合成し続けた強化ポーションである」


アネモネ「飲めば、癒しの女神を守護する防衛者かのような守りの力を得て。すべての攻撃を防ぐことが出来る…!とまではいかぬが、だいぶ防御力が上がるであろう」

マリー「心強いな。…うっかり媚薬+64と間違えないでくれよ」

アネモネ「それは…してほしいというサインか?」

マリー「そんなわけが…!」

エリザ「私の手が”うっかり”滑って首狩り発動する前に、早く配ってくださる?」

アネモネ「あ、はい」



アネモネ(皆に防衛者+64、英雄+64を飲ませた。これで攻守の強化は充分なはずだ)
ディールミィルは今まで戦うことになった魔女たちより強いだろう。愛は人を強くするというシチュエーションがあるが、まさにその状態だ。長い間、忘れてしまうほど、与えられることなかった愛にやっと満たされ。彼女は喜びに壊れてしまったのだ。タガが外れるほどの激しい愛は、彼女の食欲。そう生まれてしまった性だ。

アネモネ(神が与える運命というのは本当に残酷だな…。いや、そんなことはとうの昔に思い知ってるか)
吸血鬼は加速ポーション+32を飲み干し、魔女を殺すために歩み出した。

 


ディールミィル「美味シイ…美味シイ…美味シィイイイイ!!キャハハハハハ…ハ?」
支離滅裂な言葉と共に笑い声を上げる魔女の頭へ投擲される瓶…失耐性ポーション+64が見事に命中した。衝撃で砕け散り、パラパラと硝子の破片が落ちる。そして、冷たい液体がディールミィルの顔に滴り。肉体を守る魔力が弱まる感覚がした。そう、ぼんやりと理解したディールミィルは飛んできた方向を見やり。真紅のマントを纏った幼い少女の姿を見つけた。その瞬間、心臓の鼓動はドキドキと早まる。まるで恋する乙女のように。
ディールミィル「イタダキマぁぁぁぁス…キャハハハハ!!」
狂乱するように叫んだ魔女は背から、まるで口内のような肉塊が飛び出した。歯のように牙を生やし。だらだらと涎らしき粘液が地面に落ちる。アネモネは警戒するように距離を取っていたが…。

アネモネ「…ぐっ!?」
それは一瞬の出来事であった。肉塊はカエルの舌のように収縮し。アネモネの腕に嚙み付いた。大小の牙が突き刺さり、焼けるような痛みを感じた。魔女の唾液は酸の海と同じ効果があるようだ。そして、ひと噛みされた。骨が砕ける音が聞こえる。バリボリ、バリボリと、まるでスナック菓子を噛み砕くように。やっと離れた時には、見るも無残に、腕は変形しており。裂けた傷口から多量の血が溢れ出し…噴水のように吹き出した。まるで冗談のような光景だ。


ディールミィル「モット…モット!食ベタイ!!マダ足リナイ!!」

アネモネ「…激しいキスマークだな。初めて…いや、2度目だから仕方ないのか?はは」

エリザ「なに笑っていますのっ!!」

アネモネ「急に怒られるとは、これが頑張ったご褒美か」

エリザ「ち、違いますわよっ!ついさっき、あなたの腕がすごい…酷いことになって……」

アネモネ「それがどうした?契約で回復した。いつもどおり麗しい我だぞ」

エリザ「私は嫌ですの。あなたがひどいケガをする姿なんて、まったく楽しくないですわ…だから、その、無茶しないで。私のために」

アネモネ「…。なら、努力しよう。エリザのために」

 

ここからが本番だ。そう集中し。武器を手に、立ち向かう一行。エリザとマリーは接戦し。少し離れた位置からドラクルはクロスボウで射撃する。そこから更に離れた場所から、アネモネとジルは魔法攻撃をする。その態勢を崩したら、一気に崩壊するような…そんな緊張があり。今まで培った力を最大まで発揮しようと。皆、全力であった。だが、恐ろしい魔女の前にあるのは…ミンチにされるか、どうかの、運であった。

ジルは《暴蝕のディールミィル》に殴られた。ジルは死んだ。アネモネは復活の書を読んだ。ジルは復活した。

ジル「うう…ごめんなさいですです。せっかく、強化ポーションを頂きましたのに…」

アネモネ「気にするのではない。ジルはDV重視の軽装備であるからな。防衛者ポーション+64があっても、痛いダメージであったであろう」

ジル「そんなこと…僕は全然、平気ですよ!平気へっちゃらですです!」

アネモネ「そうか…。なら、戦え。我が下僕よ」

ジル「はいですです!」


マリーは《暴蝕のディールミィル》に殴られた。マリーは回復した。マリーは《暴蝕のディールミィル》に殴られた。マリーは回復した。マリーは《暴蝕のディールミィル》に殴られた。マリーは回復した。

マリー「はぁ…はぁ…なんて激しい攻撃だ」

アネモネ「3連続回復するとは…ガッツがある奴だな。いや、死神に愛されているのか?」

マリー「縁起でもない…。前々から疑問に思っていたが、契約している死神はなんのメリットがあって、私たちを死から見逃しているんだ?」

アネモネ「そんなこと我にわかるわけがなかろう。死後に聞け」

マリー「嫌だよ」

ドラクル「…楽しいからではありませんか。死人に口なしでございますから」

アネモネ「それはそれはろくでもないな」

ドラクル「そういうものですよ」


ジルは《暴蝕のディールミィル》に殴られた。ジルは死んだ。アネモネは復活の書を読んだ。ジルは復活した。

ジル(また僕だけが…)

アネモネ「そなたは充分、耐えておるよ。それに…よく狙われるのは、ジルの魔法が強力だからだ。見よ、ディールミィルはだいぶ弱ってきておる」

ジル「良かったですです~!マスターの戦いに役立てることが僕の幸せですです」

アネモネ「…ジルは本当に素晴らしい我の下僕であるぞ」

ジル「ふひ、うぇひひひ…」(もっともっとマスターのために戦って…強くなるのですです♪)

アネモネ(我が戦うことを、旅をやめたら…いや、今はそんなことを話す場合ではないな)


*ブシュッ* エリザは《暴蝕のディールミィル》の首をちょんぎり 殺した。

エリザ「…」
勝利した少女の顔に浮かぶものは、悲しみであった。元の幼い少女の姿に戻ったディールミィルはよくわかってない様子でぽつりと呟いた。
ディールミィル「あれ…?」
その瞬間、自身の喉元から上がる血飛沫を、ディールミィルは目を瞬かせながら見つめていた。ぶちり、と何かが千切れ、飛び散る音。消失した半身と、遠のく意識。ひゅーひゅーと呼吸をしようとした唇から、意味をなさない異音が漏れ出した。痛みよりも息苦しさよりも、まず先立つのは強烈な飢餓感。ずっとそうだった…。この世に生を受け、物心がついた時から片時も忘れることなく…。ディールミィルはこのどうしようもない欲求に支配され続けてきたのだ。ああ…だけど…これで…。
ディールミィル(そっか…もう私、食べなくていいんだ…)
切り裂かれ、ズタズタに崩れた喉元を見る。これではもう、何も飲み込むことが出来ない。何も腹に収めることは出来ない…。これでもう、誰も…。
ディールミィル(————…なんだ…。だったらもっとずっと早くに、こうしていれば良かったなぁ…)
何故、気付かなかったのだろう。そうすれば…。そうしていれば…。きっと、私は…。最後に、ひとつだけ心残りがあるとすれば…。それは多分…。
ディールミィル「………き」
虚ろな視線で血の咳嗽を吐き散らしながら。横たわったディールミィルは弱々しく。その細腕を宙へと伸ばした。


掠れた声で、吐息で…。一握りだけ残された自身の想いを告げる。すぐ傍に、存在を感じる———兄以外で初めて愛おしいと思えたあのひとが居てくれると分かっていたから。指先に柔らかな頬が触れる。
ディールミィル(ああ…こんなに幸せで、いいのかな…)
優しく肩を抱きとめられる感覚に、視界が滲む。それが自身の初恋だったのだと、小さな魔女はようやくこの止められない衝動の正体に思い至った。この想いが。この感情が。この温もりが。
ディールミィル(きっと…)
何度も咀嚼し、反芻するように。彼女はゆっくりと答えを飲み込んだ。
ディールミィル(お兄様…ミィルは、少しだけ大人になれたよ…)
————…。
神様。願わくば、次に与えれた生では、この人の隣に立つことをお赦し下さい。同じ目線で、同じ時間で、人としてあのひとに触れる事を、どうかお赦し下さい…。どうか…。
消え失せていく意識の中、魔女は静かに祈りを捧げる。断末の瞬間、一体、彼女が何を見たのか…それを知る者は何処にもいない…。

 

~???~

そこは見覚えがある場所だ。月のような淡い光を放つ不思議な扉…ムーンゲートが複数も並ぶ。静かで奇妙な空間。

アネモネ「…?」
ついさっきまでディールミィルを腕に抱いていた気がする…。けれど、腕の中は空っぽだ。周りを見渡しても、影も形も無く。共に居たはずの下僕たちの気配も無かった。

アネモネ(だが、あまり驚きを感じぬ)
何度か、見た記憶があるのだ。この月の門の境界を。生きているラーネイレと同じ時間を過ごし、幾度も危機に陥るイルヴァの地を救い、魔女と呼ばれる彼女たちの出会いの後に。

アネモネ(…目覚める直前か)
徐々に、今まで起こった出来事が曖昧になっていく。重くなってきた目蓋を閉じ…開いた時には、この世界での記憶は忘れているだろう。夢の内容を忘れるのと同じように。下僕たちとの間に起こった会話や出来事は覚えているかもしれないが。

アネモネ(随分と長い夢を…?……いや、夢ではない。きっと我と関わった者たちは存在しているはずだ)
先刻まで在った世界を、存在しないものだと、そう切り離すことが出来なかった。それだけ吸血鬼の心に残るものがあった。あったのだ。他者を暇つぶしの玩具ではなく、大切に…好きになれるぐらいには影響があった関わりは、きっと存在している。…もう一度、来る時にはすべての真実が明かされることを願い。アネモネは目蓋を閉じた。

 


強化版ディールミィル、ほんと強かった…。この一戦は本当に運良く契約が発動しており。失敗では復活の書を使い切ることもあった。防衛者ポーション+64を使っていても、けっこうミンチにされるのですよ。
これでノヴィスワールドでのプレイは一旦終わりです。最新版にラーネイレさんの追加イベントやサブクエがありますが、まだ見ぬ強敵(魔女)が実装されてから…再開しようと思っています。
改めまして、ここまで心血を注いだ作品を更新し続けてくれているノヴィス氏に感謝。何年先でも完結を楽しみにしております。

 

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