クレイモア吸血鬼の旅行記110 ノヴィスワールド-傀儡の魔女 前編-

elonaプレイ日記踊れ月光『アネモネ』


アルハザード「久しぶりね。待っていたわ」
寒々とした雪原の中にひっそりと存在する小屋。扉を開くと、心地よい音が響く暖炉の熱気と共に、静かな魔女の声が出迎えた。突然の訪問に驚いた様子は無く。まるで今日、吸血鬼が訪れるのをわかっていたかのようだ。

アネモネ「ああ。久しいな。そなたの麗しい顔が見たくなってな」
アルハザード「ふふ、相変わらずね。…でも、以前より落ち着いたのかしら?」

アネモネ「…さてな。やりたいことはまだまだあるな」
アルハザード「好奇心は猫を殺す。という言葉をご存じ?」
魔女の紫水晶の瞳はすべてを見透かすように美しい。今まで何が起こったのか、すべて知っているような…そう思わせる雰囲気があった。

アネモネ「…。冒険者というものはそういうものだろう。さあ、そなたの依頼を達成するのも冒険者の仕事だ。受け取るがよい」
吸血鬼は懐から3冊の書物を取り出す。原書『エルトダウン・シャーズ』、原典『エイボンの書』、《忘却の書》。異形の神が関わった事件から、忘れ去られた島などで、入手した貴重な本だ。
アルハザード「あら…。随分と沢山の古文書を回収してくれたのね。感謝の言葉もないわ。その労をねぎらうために私に何か出来ることはあるかしら?可能な限り、要望に応えたいと思うのだけれど」

アネモネ「ほう…ふふ、そうだなぁ。パンティをくれぬか」


アルハザード「…なかなか面白い冗談ね。私の下着に一体どんな値打ちがあるのかしら」
まるで吹雪によって、暖炉の火が消えたかと思うほどの寒さだ。しかし、吸血鬼は飄々とした笑いを浮かべたままだ。

アネモネ「大いにあるぞ」
アルハザード「あなたはそこも変わらないみたいね…」

アネモネ「我は我だからな」
アルハザード「はぁ…それはともかく。残念だけれど、流石にその要求には応じられないわね。私にだって、人並みに羞恥はあるのだから。…あなただって、そんなこと言われたら恥じらう気持ちはあるでしょう?」

アネモネ「欲しいならくれてやるが?まあ、我を満足させた者へのご褒美にかぎるが…そうだ。ただでくれぬというのなら、ゲームをしないか?」
アルハザード「ゲームに勝ったら、私の下着を1枚あなたに譲れと?……………」
魔女はしばし熟考するように無言になる。面白いと思ったのか、言葉ではあしらえないと思ったのか。やや時間をおいてから、口を開いた。
アルハザード「…まぁ…良いでしょう。そのゲームのルールが公正であり、かつ、あなたにも何らかのリスクが課せられるというなら、其処は譲歩しましょう」
渋々ながら承諾するアルハザードに対して、吸血鬼は次のようなルールを掲示した。



アネモネ「そして、HPと設定された値が減っていく毎に、ダメージを受けた者は相手に衣服を脱いで渡さなければならない。最後の1枚である下着が相手の手に渡ったら、それは永遠に相手の所有物となるのだ」
アルハザード「…ちょっと待って、最後のは色々とおかしくないかしら。…いえ、確かにお互いにリスクは背負っているけれど、どう考えてもそちら側が————…」

アネモネ「さあ、ゲームを始めるとしよう…!ふふふ、ふはーはっはっはっ!!」
抗議するアルハザードを無視して、吸血鬼は卓にカードを配り始めた。ゲーム開始だ。
アルハザード「————…っ。この、ケダモノ…っ!!」

 



アネモネ「ぬ?HP80は高すぎではないか?」
アルハザード「有無を言わせず始めたペナルティよ」(これなら、絶対脱がされないはず…)

アネモネ(と、考えているだろうが)


アルハザード(少しやられたけど、向こうのHPは残り10…これ以上は脱がされ…)


想像以上に粘る吸血鬼。アルハザードの額に焦りの汗が流れ、顔はみるみる赤く染まっていく。この胸の鼓動は緊張によるものか。それとも…。アルハザードは息を呑み、カードを開示した———

アネモネ「…ああ、我の負けだな」
吸血鬼が出したカードはロミアス、アルハザードはラーネイレ。勝負は決したのだ。
アルハザード「…存外、楽しめたわ。私も思わず熱くなってしまった…。少しだけ、ね」

アネモネ「そうかそうか、我も愉快であったぞ。…さて、約束のものをくれてやろう!」
アルハザード「え…?」
そそくさと着替えていた魔女に向かって、吸血鬼はにやりと笑い。見せつけるように、最後の1枚である下着の紐にゆっくりと指をかけ…
アルハザード「ちょっと…!や、やめてちょうだいっ!!私は別に望んでないから…っ!!」

アネモネ「お互いに納得して、決めたのであろう?さあ、受け取るのだ…!」
アルハザード「あなたが一方的に決定したのでしょう!わ…私からの要求は……そう。ヴェルニースのミシュスの元へ向かいなさい」

アネモネ「ぬう?」
アルハザード「エリンと会ったあなたならきっと…彼女の運命も動かせるでしょう。どう転がすのか、あなたの自由だけど」

 

けっこう運良く削れたが、やはりHP80は多いな。工房ミラル・ガロクでアレ取れば楽になるけど。その結果は多分、次々回辺りにね。

 



アネモネ「魔女と戯れ、敗北し…勝者の”お願い”に従い。ミシュスから話を聞いたところ、ぬいぐるみの館がどこかにあるらしい」

エリザ「…」

アネモネ「…エリザよ。何か気になるなら、言葉にしてくれぬか」

エリザ「いえ、別に…。後ろめたいことしていないなら、そんな曖昧ではなく、ハッキリと経緯を説明してくださるだけでいいですから」

アネモネ「ただのゲームだぞ?定番で簡単な、さんすくみルールで」

エリザ「私の目を見てくださる?」

アネモネ「…服を少々…いや、互いの下着を最後に脱ぐまでやるというルールでな」

エリザ「そう………」
そう呟いた少女の両手は素早く吸血鬼の白い頬を掴んだ。

アネモネ「いや待て、我は素直に話したでぬわああああああああああああああっ!!?」

マリー「なぜではないだろう…何やっているんだ、お前」

 

~傀儡の館~

ノースティリス南方に広がる森を抜け、更に山脈を越えた西にある、海がよく見える崖の上。そこに、噂の館はあった。

エリザ「こんなところに、お屋敷があるなんて…全然気付かなかったですわ」

アネモネ「街道から外れた、大陸の端であるからな。しかし、海原が見える眺めは良いな。別荘としては良いかもしれん」

エリザ「嫌ですわよ、こんな僻地。管理が大変ですわ。それに入り口になんだか不気味な人形が座っていますし…」

ジル「邪魔ですねぇ。焦げカスにしてやりましょうか」

アネモネ「そのようにせずとも、横に置けば…」
不気味な人形「クス…クス…」
手が触れる直前、無表情だった人形は”笑った”。陶器で出来た硬質な唇の端を上げ、冷たい硝子玉がはめられた目を細める。その変化に驚く吸血鬼たちを嘲笑うような表情を浮かべたまま、人形は闇の中に溶けるように扉の奥へ消えていった。

ジル「はわわわー…あの人形、ぶっ壊さないと!」

ドラクル「これはこれは、丁寧な案内でございますね」

アネモネ「はは、ふはーはははははっ!面白いではないか!招待されてやろうではないか」

 

「さぁ…お人形遊びを始めましょう」

内部に入ると、沢山の人形たちが出迎えた。びっくり箱から顔を出した愛嬌ある猫の頭。独りでに動くマリオネット。そう表すとメルヘンチックだが、人形たちは一斉にこちらを見ると襲ってきた…!

エリザ「…っ!?」
少女は驚きつつ、愛用の短剣を振るう。人形は見事に切り裂かれた。ボロボロになった人形は床に転がり、開いた口から…声が聞こえた。
「アア…チクショウ」

エリザ「…今、あの人形が喋りましたの?」

ジル「完全にざぁこが言うセリフですねぇ。魔女が作った玩具はセンスが悪いですです」

ドラクル「ですが、塵ひとつなく掃除されていますね。調度品や、建物内部は大分老朽化していますのに。物を大事にし、綺麗好きなのは確かですね」

エリザ「この状況にそんな感想が出る、あなたたちに驚きですわ…」



アネモネ「…」

マリー「どうしたんだ?アネモネ」

アネモネ「いや…館に入ってから、先に進むごとに奇妙な記憶が見えてな。魔女の仕業か…どうも、この館に関係しているようだ。まあ、どういうオチなのか。大体、察しがつくが。…気になる、という顔をしているが。聞きたいのか?」

マリー「わからないでいるより、私は知りたい」

エリザ「…私にも、聞かせてちょうだい。気になって、戦いに集中できないと思いますから」

アネモネ「そうか。なら、話すとしよう。かつて、”エトリエ”と呼ばれた地の過去をな」

 


しかし彼は行幸先にて、落盤に巻き込まれ、妻と共に無惨にもその命を散らしてしまう。民衆の動揺、統治下にあった貴族たちの不穏な動き…。それらがエトリエの未来に暗い影を落とす中、1人の少女が幼くして領主の座を即位する。彼女は前領主とその妻の間に生まれた遺児…支配者の血を継ぐ正当なるこの地の後継者であった。
幼き領主となった少女は父のように偉大に、母のように優しい領主になりたいと願った。けれど、彼女は素直で純粋な…ただの”子供”だったのだ。”大人”に言われるがまま、政治に口出しが出来ず。享楽に財産を使う貴族たちを諫めることも出来ず。領民の苦しみも、訴えも、彼女の元へ届かない。まるで操られる人形のような日々。孤独な彼女が唯一心の拠り所にしていたのは、お気に入りのぬいぐるみだけだった。

 


アネモネ「そして、事が起こった。圧政に苦しめられ、飢えた民に残ったのは純粋な怒りであった。屋敷の門前が放火され、兵は混乱し。押し寄せる暴徒たちの侵入を許した。屋敷の中は略奪と破壊、そして幼き領主を呪う言葉で溢れた…。当然な結果だな」

エリザ「……でも。彼女は何も悪いことをしていないでしょう」

アネモネ「そんなこと、民は知らぬよ」

エリザ「…っ!」

アネモネ「…すまぬ。嫌な言い方をしたな」

エリザ「いえ…あなただって、苛立っているのでしょう。気にしないで」

アネモネ「…」



マリー「………あまり想像したくないが。お前の話を聞くかぎり。その幼き領主は、魔女になってしまったのか?」
以前、戦うことになった虚構の魔女エリンのことが思い浮かぶ。彼女も世を恨むほどの不幸な境遇だった。

アネモネ「我が見たのはここまでだ。続きは…魔女本人が話すだろう」

 

~玉座の間~

玉座の前に佇む、桃色の髪の可憐な少女。華奢な手足の先から糸が伸び。空中に浮かぶ、操り棒へ繋がっている。まるで等身大のマリオネットだ。
傀儡の魔女「ようこそ、傀儡の館へ。噂や流言に惑わされ足を踏み入れる者は数居れど、ここまで辿り着いた客人はあなたたちが初めてよ、冒険者さん」

アネモネ「ああ、素晴らしくも手厚い歓迎であったぞ」
傀儡の魔女「うふふっ。楽しんでくれたかしら。わたし…あなたたちにはとても、とても感謝しているのよ。わたしのお人形遊びに付き合ってくれてどうもありがとう。凄く気分が良いから、選ばせてあげようと思ってね」
魔女は心の底から愉快そうに、ころころと笑う。その笑みに、何か悪意が含んでいるような…嫌な感じがした。
傀儡の魔女「見ての通り、ここがこの館の最奥。分かるでしょう?残念だけれど、あなたの求める財宝や秘奥の類は、わたし、一切所有していないの。だから、ね。これはとっても頑張ったあなたへのご褒美。このままわたしの手にかかり、館の人形の一部になるか。それとも大人しく館を出て、より広くこの館の噂を流布する私だけの傀儡となるか。2つに1つの選択肢を与えてあげる」

アネモネ「だが断る」
傀儡の魔女「…せっかく見逃してあげようと言っているのに。あなた、本当にそれでいいの?もう一度だけ聞いてあげる。私の手駒になる気はない?」

アネモネ「残念ながら、我はエリザのものだ。貴様の物にはならん」

エリザ「ちょ、ちょっと…!急に何を言っていますの…!!」
傀儡の魔女「うふふふっ…あははははっ!面白いわね、あなたたち。最高よ…。だけど、その目が気に入らない。傀儡の魔女を甘く見た報い、今からたっぷり思い知らせてあげる!」

アネモネ「はははははははははっ!それは我の台詞ぞ!」


マリーの大きく振った斧が、傀儡の魔女の腹に突き刺さり。そのまま薪を割るように真っ二つに切り裂く…!

マリー「…?」
その手ごたえは驚くほど軽く。殴った感触があまり無かった。刃を見ると、血は付いておらず。魔女の一部だった破片がはらはらと床に落ちた。魔女を見ると、露わになった手足には球体関節があり、裂けた服の間から覗く腹はひび割れていた。

アネモネ「そなたは…誰だ?」
傀儡の魔女「ふうん…」
吸血鬼の問いに、魔女はつまらなそうに鼻を鳴らし。そして、語り出した…。
傀儡の魔女「あの時、彼女のことを想ってくれる人間はいなかった。最後まで…あの子を……!」

 


目の前の男の言葉に少女は絶句した。
「あれほど———…あれほど、私が忠告致しましたのに…。”領民の暮らしをないがしろに享楽に耽るなど、亡きお父上が知ったら何とおっしゃるか…”そう再三、お諫めしましたのに、貴方はとうとう聞き入れてはくれませんでしたね、領主様」
幼き領主「な、なにを…あなたは何を言っているのですか…」
それは、私の————…
「ええ、ええ。存じております、存じておりますとも。領主様…貴方はただ子供だっただけなのです。お父上とお母上を失った悲しみを、戯れと気紛れによって忘れようとした…ただそれだけなのです」
幼き領主「ち、違…っ…違う…!私は——————…」
「ですが、罪を犯した者は裁かれなければならない。それもまた、領主の務めなのですよ。お分かりか?」
その囁く男の背後で大量の目が、一斉に翻った槍の切っ先が、鈍い光を放ち少女を捉えた。

私欲を満たすことしか能の無い暗君に裁きを。愚昧なる支配者に鉄槌を。民衆を苦しめる領主の首を門下に晒せ!
首を。
首を。

幼き領主「い…や…」

首を。首を。首を。首を。首を。首を。首を。首を。首を。首を。首を。首を。首を。首を。首を。首を。首を。首を。首を。首を。首を。首を。首を。首を。首を。首を。首を。首を。首を。首を。首を。首を。首を。首を。首を。首を。首を。首を。首を。首を。首を。首を。首を。首を。首を。首を。首を。首を。

幼き領主「いやぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!


たす、けて…。たすけて…父様…。
たすけて…母様…。
たすけて……”ルゥルゥ”…。

 


ルゥルゥ「長噺に付き合ってくれて礼を言うわ。人形劇はこれでお終い。なぜならエトリエは、幼き領主が斬首されたその日、一夜にして謎の滅亡を遂げるのだから」

アネモネ「…そうか」
ルゥルゥ「ねぇ、あなたが此処へ来るまでの間、斬り倒した無数の玩具のことを覚えている?あの不格好な器の”中身”が何なのか、あなたには分かる?」
そう言って、魔女は微笑む。とても魔女らしく。
ルゥルゥ「親友を殺され、自我に目覚めた人形は、あの日から何百年も、ここで人形遊びを続けているの。あの子を利用した家臣たちを糸で括って、玩具のように弄んだ民衆たちを操りながら…あなたのような冒険者をこの館に招き入れ、何度も何度も殺し合わせるのよ。生き返らせては殺して、生き返らせては殺して。何度も。何度も。何度も!」
冷えた口調から最後には激しい怒りを露わにする魔女。その憎しみはどれほど時が経とうが、繰り返そうが、消えないものだ。
ルゥルゥ「…名乗りが遅れたわね。私はルゥルゥ。人外の魔女にして、この館を彷徨う傀儡たちの王。さぁ…楽しい楽しい、人形劇第二幕の始まりよ!踊り手はあなた。紡ぎ手は私。この無人の舞台の上で、あなたにも教えてあげるわ。”絶望”を————…!!」


魔女の叫びが響き渡ると、禍々しい黒い光が玉座の間を満たし。その光は、激流の中心のように、魔女の元へ吸い込まれていく。そして、それが収まると…魔女が居た場所に、天井に届きそうなほど巨大な人形の姿があった。ふわりと優雅に羽を広げる蝶のような青いドレスを纏い、まるで絵物語の女王かのようだ。しかし、その頭部は髑髏のように恐ろしく。黒い手足を触手のように伸ばしている。

アネモネ「おお、魔女の間で巨大化が流行っているのか」

ドラクル「第二形態と同じくらい、お約束でございますからね」

ジル「僕も、もっともっと魔法の腕を上げて、第二形態できるようになりたいですねえ。それで、マスターの敵をぶちぃ!って踏みつぶしたいですです♪」

エリザ「呑気なことを言っている場合ですの…?」

アネモネ「わかっておる。戦う前の、すこーしの息抜きだ。戦いへの準備は万全だぞ」

エリザ「あなたらしいですわね。私はまだ…躊躇ってしまいますわ。…でも、逃げる気はないですわ」

マリー「…」

アネモネ「お前はどうする?」

マリー「少し、迷いはある。だが、魂を弄ぶ行為は許されないことだ。どれほどの罪があろうと。だから、私は全力で戦う!」

アネモネ「ふ、お前らしいことだ。さあ、魔女と吸血鬼と人間の円舞を楽しもうぞ!ふはーははははははははははっ!!」

 

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