雷鳴が響く大雨の中を歩き、一行が到着した場所。そこは恐るべき毒の怪物が潜んでいるという猛毒の巣窟だ。
アドニス「ふぅ…服がびしょびしょだ」
ルシアン「じゃあ、服脱ぐ?焚火でも囲む?そして、裸で」
アドニス「そんなこと言っている場合か…!」
ルシアン「ははっ。わかってるわかってる」
そう笑うルシアンは、実はこちらをずっと睨んでいたマスターリッチに向かって裏拳を叩き込む。その衝撃にマスターリッチは爆発したかのように骨が飛び散った。
アドニス「…。いっそ可哀想に思えるな」
ルシアン「脆い骨が悪い」
デイビッド「アニキの拳を受けたら、アッシもバラバラになりそうでやすね。ゾンビだから、平気でやすけど」
アドニス「生命力10の俺は塵になるかもな」
ベアトリクス「その光り輝くレンズによって、私の魔眼も跳ね返されるかもね」
ミア「ふええ…アンちゃんの眼鏡、怖いです~」
ルシアン「ええ~。…みんな、冗談だよな冗談?」
アドニス「…っ!」
階段を降りると、グリーンドラゴンが2体も待ち構えていた。少年は咄嗟に鼓舞をし。接近とブレス攻撃に警戒する。だが、そのドラゴンの前に立つ後ろ姿があった。ルシアンだ。強く握った拳を硬い鱗に覆われた巨体に叩き込んでミンチにし。更に2体目のドラゴンも同じように拳で倒していく。その姿はまさに…
デイビッド「まるで伝説のドラゴンころし…いや、ドラゴンボーンが近いっすかね」
ルシアン「え?なにそれ」
デイビッド「ドラゴンを倒し、力を吸収する特別な存在…。そして、ラスボスの翼に乗り、建物の上と山を駆け、辿り着いた村にある槌をおもむろに取り、巨悪の女戦士を倒す伝説のドラゴンボーンでやすよ」
アドニス「うむ、ルシアンなら出来そうだ」
ルシアン「いやいや、何の話!?」
最近、気が向いてMOD環境を再構築し。更に新規データで遊び始めたら、この記事を書くのが、えらいギリギリになってしまった。時間泥棒ぶりは、何年経っても変わらないな。elonaもスカイリムも。…続編をずっと待ってるのも。
アドニス「ここが最下層のようだな。…見たところ、ダイオウサソリが居るぐらいだが。一応、ミアは後ろに…」
少年がそう言い終える前に、ダイオウサソリに命中する幻影の矢。キュートなピンクの光に包まれて、サソリは真っ赤に飛び散った。
ミア「うひひひっ!こーんなのざぁこのざーこですよー!」
恐れなど知らんばかりに半妖精はにやりと笑う。その無邪気な笑顔に、思わず同意してしまいそうだが、ネフィア探索は危険と隣り合わせだ。そう真面目に考える少年はミアに伝える。
アドニス「俺はミア(の状態)をいつも思っている。だから、(油断せずに)俺から離れないでくれ」
ミア「いやぁん、ドニちゃん!ボク、一生離れませんから♥♥」
アドニス「うむ?」
アドニス「奥にはポイズンハウンドか…どろどろした緑の毛並みはいつ見ても不思議で可愛いな」
デイビッド「アッシもゾンビぃな見た目に親近感を覚えやすね~」
ミア「ん~~~…?ボクにはドニちゃんとデーちゃんが言ってることが難しいです」
ルシアン「安心しろ。俺もわからん」
ミア「ぴゃあああああっ!?全然、可愛くないです!憎いこんちくしょうじゃないですか!ばっきゃろー!」
アドニス「ハッ…!和んでいる場合じゃなかった」
ルシアン「正気に戻ったか。さあ、頑張ろうかー」
アドニス「ミア、回復しないのか?けっこうダメージを受けているじゃないか」
ミア「この程度、平気ですよー。毒も抜けましたしー」
アドニス「ダメだ。しっかり回復しておくぞ」
少年は優しく片手にミアを乗せ、もう片方に握った癒しの手の杖をかざした。先端の宝石から温かな光が溢れ、ミアの傷を完全に癒した。
アドニス「これで良し…。傷付いていた姿より、俺は元気なミアが好きだぞ」
ミア「はぅ…はうはううううううぅぅぅ~~~」
アドニス「はう?どうしてしまったんだ…?」
ベアトリクス「…アドニスくん、もしかして素でやっている?」
ルシアン「天然というのが正しいな~」
奥から奥へ、暗く狭い通路を進む一行。しかし、現れるのはポイズンハウンドとダイオウサソリばかりだ。逃げ場ないところに放出される毒ブレスに耐え、回復を忘れないように気を張り。体勢を整えて、確実に殲滅していく。
アドニス「ボスらしい姿が見えないな…?一体どこにいるんだ?」
ルシアン「もう倒してるとか?前回の戦利品の中にあった《ダンスマカブル》で。実は『マカブル』って奴がボスだと気づいたしな」
アドニス「驚きの事実だったな。だが、そんなことが2度も」
そう言いかけて、少年は耳を澄ませるように目を細めた。かさ、かさ、とダイオウサソリに似た音だが、それより大きい気がする。集中していると、壁が破壊される音が響いた…!
姿を現したのは巨大なサソリだ。削岩機かのような威圧感あるハサミ。天上すれすれまで伸ばした尾は鋭く、毒液を滴らせている。
ルシアン「うわっ!?でっか!でっけえな!」
ミア「ふええ、すごい硬そうです~」
ルシアン「どれどれ…」
試しに一発、殴る。だが、巨大サソリは微動だにせず…硬い。そして、ヤスリのようにザラザラした表面は皮膚が剥けそうだ。
ルシアン「…」
アドニス「…ルシアン?」
ルシアン「いや~、ははは。マジでかったいなあ!でも、この程度で俺の拳は退かねえよ!!」
殴る、殴る、ルシアンの拳は休みなく、『イルベロネー』を殴り続ける。挟もうとする巨大ハサミを腕で受け止めてガードし。時折、頭上から襲ってくる毒針が付いた尾も避ける。後方からアドニス達の射撃と魔法攻撃も受けているはずだが、頑丈な『イルベロネー』はいくら攻撃を受けようが、疲れも、怯みも見せない。
アドニス(またルシアンばかり負担をかけて…いや、そんなことを考えるより、攻撃だ攻撃!)
少年はよく狙いをすまし。『イルベロネー』に会心の一撃を与えた。それを近くで見ていたルシアンは、ある変化に気付いた。
ルシアン(……ひび割れている?)
恐ろしく硬い甲羅に僅かに亀裂が走っていた。先ほどのアドニスの攻撃の影響か、それとも皆で与えた攻撃の蓄積か。何がどうあれ…ここがウィークポイントだろう。ルシアンはニヤッと口角を上げ。渾身の力で、亀裂に拳を叩き込んだ———!
ルシアンは熱砂の大蠍『イルベロネー』を殴って殺した。
ルシアン「よっしゃー!これで終わ…いてーっ!?」
喜びの声を上げようとした瞬間に襲った痛みにルシアンは転びかける。まだ潜んでいたダイオウサソリのハサミに靴を少し挟まれたのだ。
アドニス「ふ、ルシアンは本当にしまらない阿呆だな」
デイビッド「そのマヌケな愛嬌がアニキは良いところでやすよ」
ミア「ボクもアンちゃんを面白いって思っていますよ~」
ルシアン「ははは、そんな素敵なことを言うお前らには、俺のあつーい抱擁をくれてやるぜ~」
アドニス「ぬぅおわあ!?汗くさ」
ミア「くっさー!」
デイビッド「…」
和気あいあいと起こる馬鹿騒ぎ。だが、そんな中、ベアトリクスは何か考えるように沈黙していた。
ベアトリクス「…」
逃げ場ない狭い通路から、次から次へと襲ってくるポイズンハウンド…。ルビナス装備でHP上げてなかったら、もっと大変だったかもね。ミアのHPにはドキドキさせられましたが、なんとかなるものだ。
今回のサブタイと動画で使用しているBGMから、分かる人には分かると思うけど…カードワースシナリオ「アンタレス」を元にしています。サソリですぐ思い浮かんだのがそれだったので。不思議でホラーっぽい雰囲気で。とても好きなシナリオです。
~自宅~
ベアトリクス「少しいいかな?」
控えめなノックの後に聞こえる穏やかな声。くつろいでいたルシアンは一体なんだろうと思いながら起き上がり、扉を開けた。
ベアトリクス「あ、ごめんね。わざわざ開けてもらって…」
ルシアン「気にしないでくれ。俺がやりたいと思ってやっただけなんだから」
ベアトリクス「君らしいね。でも、それがよくないところもあるよ」
ルシアン「へ?」
思いがけない言葉に呆気を取られていると、ベアトリクスにそっと手を掴まれ。じっくりと見つめられた。
ベアトリクス「やっぱり…傷だらけじゃないか。こういう細かい傷は大したことない判定なのか、魔法で治らないのは不便なところだね」
そう呟く視線の先にあるルシアンの手には傷があり。擦り傷といえば、その程度の傷だが。その数は多く。見ていて痛々しいほどだ。
ルシアン「身体が自然治癒能力を忘れないため…だっけ。だからまあ…ほっとけば治るし。ベアさんが気にするほどじゃないよ」
ベアトリクス「さっき、君が言った事を忘れたの?」
魔術師は懐から小さな容器を取り出し、独特な匂いがする軟膏をたっぷり手の平に乗せ。丁寧にルシアンの手に塗り込んでいく。
ルシアン(………なんか、その。どうしよう)
武骨に鍛えられたルシアンの硬い手と違い、ベアトリクスの手はとても柔らかく繊細だ。触れる彼女の体温に、汗が滲む。今、この空間にいるのは己と彼女だけ。なんだかルシアンは落ち着かない気分になってきた。
ベアトリクス「……これでよし。私が調合した特別なものだから、完璧に綺麗に…!とまで言えないけど。治りは早くなると思うよ」
ルシアン「ア、アリガトウゴザイマス…」
ベアトリクス「…。発汗がすごいけど、熱があるの?」
ルシアン「うわあああああぁぁ…!?」
近づくアクアマリンの瞳に、心拍が一気に上がる。逃げるようにルシアンは後ろに尻もちをついてしまった。
ベアトリクス「うふふ…あっはっはっ!……ごめんね。つい面白くて」
ルシアン「ベアさんまでひでーよ。…ははは」
苦笑しながら、ルシアンは立ち上がろうとしたが。差し伸ばされたベアトリクスの細い手が視界に入った。もう一度触れたいと思ったか、無碍にするのもな…というルシアンらしい考えか。手を伸ばし、その温かな手を握った。
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