~奇妙な屋敷~
ルシアン「なんだこの部屋!?」
ミア「ふええぇ…爆弾岩と相部屋です。ボク、即ミンチですよー!?」
アドニス「安全なところは…」
爆弾岩は爆発した。爆風はアドニスに命中した。アドニスは粉々の肉片に変えられた。
アドニス「ぬぅおわあああああああああああっ!!?」
ルシアン「アドニスーーーっ!?」
アドニス「…」
少年は埋もれていた。癒しのジュアの抱き枕の群れに。どことなく良い匂いがする、乙女の柔肌のような優しさに包まれ。少年の心は癒されている…様子では無かった。
アドニス(この前の…ノースポイントでの攻略。何度か再挑戦してみたが、どうやっても俺が原因で無理だ)
随所に配置された爆弾岩。その爆発は生命力10のアドニスには致命的であった。そして、柵で小部屋のように狭まれたマップは逃げ場が無く。必ず爆風に巻き込まれてしまう。
アドニス(契約の魔法はまだ安定して唱えられない。装備をルビナスに変えるのも時間かかるだろうな)「……はぁ」
どうするかの考えは思い浮かぶが、どんよりと曇った空のように少年の心は晴れない。
アドニス(俺は皆のリーダーにふさわしいのだろうか。…ルシアンの方が向いているんじゃないか。皆を守る心強い戦士で、いつも明るい性格に皆は笑顔になる)
もやりとした苛立ちは己に向けた感情なのか。それとも…。その思考を遮るように扉をノックする音が響いた。
ルシアン「アドニス、起きてる~?」
アドニス「…」
ルシアン「返事がないなら、お邪魔しますー」*ガチャ*
アドニス「入るな」
ルシアン「起きてるじゃん」
アドニス「寝てるから起きてない。悪いが、遊ぶ気分じゃない…」
ルシアン「それじゃあ、メシは?帰ってから食べてないだろ」
アドニス「俺の主食は血だ。少しぐらい食べなくても平気…」
ルシアン「そっかー。夜食にラーメン作る準備してるんだけど、坊ちゃんは食べないのかー」
アドニス「…ニンニクある?沢山入れたい」
ルシアン「え?うん、あるけど…いつもながら脳が混乱するな。そのニンニク好き」
部屋に充満する食欲を刺激する匂い。丼の中で輝く黄金色のスープとコシがある麺が踊り。その上にはチャーシューとチャーシューだらけの…チャーシューマウンテンがそびえ立っていた。
アドニス(麺が見えない…)「お前の肉好きもどうかと思うぞ」
ルシアン「肉は完全栄養食だからな。食べれば、どんな傷も治る」
アドニス「それはお前だけだ」
ルシアン「ええ~」
そんなやり取りして、2人はラーメンを食べることに集中した。ただ麺を啜る音だけが室内に響く。舌に伝わる旨味。腹に満ちる温かさ。他の皆が寝静まる中、こっそりと食べるのも背徳的な隠し味だ。
アドニス(美味しい…なんだか、あれこれ悩んでいたのがどうでもよくなってきたな…)
ルシアン「ぷはー。キンキンに冷やしたビアもうめー」
唇と鼻の間に髭のような泡を付けた幼馴染の姿がマヌケで。少年は和んだ瞳で見つめる。けれど、自暴自棄になっていたことに申し訳ない、という気持ちにもなってきた。
アドニス(また気を遣わせてしまったな…。俺が出来ることで。この嬉しい気持ちを返したい…そうだな。PTを率いる者として決めよう。皆が楽しく、ワクワクするような冒険がある。次のネフィアを)
~ミノタウロスの巣~
アドニス「ということで、美味しい肉が沢山ある。ミノタウロスの巣に挑戦するぞ!」
ルシアン「え?」
デイビッド「今夜は焼肉パーティーでやすね!」
ベアトリクス「うふふっ。ミノタウロスの肉はよく引き締まっているだろうからね。私も楽しみだよ」
ミア「わーい。ボク、頑張りますねー」
ルシアン「…」(ミノタウロスって、2足歩行で人間っぽいけど…。みんな、牛肉って認識なのか???)
アドニス「しかし、暗くて道が入り組んでいるな」
ルシアン「迷宮って感じだよな。そういう複雑で面倒なネフィアには…」
アドニス「千里眼の杖だな!」
魔道具を使用し、この層の地形を把握する。少年は目蓋を閉じ、意識を集中させ。階段がある場所を探る。
アドニス「うむ…ここから北西だな。奥にいるというミノタウロスの王『ウンガガ』に備え、なるべく道中の敵は無視して、消耗を抑えるぞ」
ルシアン「おー」
デイビッド「うぃ!」
ベアトリクス「了解だよ」
ミア「はーいですー」
なるべく戦わず階段から階段へ移動するだけ…といっても、それは楽なものではなかった。時に四方を囲まれ。千里眼の杖を使っても、階段が見つからない、など…様々な困難が一行を襲った。しかし、諦めることなく。敵を蹴散らし。時にテレポートの杖で飛ばし。もう一度千里眼の杖を使用して、階段を見つけ出す。確実に先へ先へと進む。そして…
千里眼の杖(残り4回)を振った、アドニスは周囲の地形を察知した。
アドニス「……ぬ?また階段が見つからない?」
ルシアン「確か…ミノタウロス退治を依頼したおっさん曰く、今まで頼んだ冒険者は5層でウンガガに遭遇して逃げ帰ることが多いらしい。だから、ここが最下層なんじゃないか?」
アドニス「そうなのか。なら、より気を引き締めて行くぞ」
ミア「安心してください。ドニちゃんはボクが守りますよー!」
アドニス「ほどほどにな」(正直、ミアの方が心配なんだが…)
降りた階段から、だいぶ離れた場所まで来たが…話に聞くボスの姿は見えず。一体いつ出てくるのか…。緊張した空気が続く。少し和ませようと、ルシアンは冗談を言おうとしたが…ふと勘が告げる。今まで戦ったミノタウロスとは違う殺気があると。そう感じ取った先にルシアンは手裏剣を投げつけた——!
円盤に見えるほど旋回し、鋭い刃がついた手裏剣は威風堂々と立つミノタウロスへ飛んでいく。だが、当たる直前に巨大な赤い斧を振るい。手裏剣を弾いた。
ルシアン「俺の手裏剣に気づくとは…こいつがウンガガだぜ!」
デイビッド「アニキの拳はすげえですけど。手裏剣は凄かったですかね?」
アドニス「けっこう外している印象だな」
ルシアン「ええ~!?」
ベアトリクス「そんなことないよ。ちゃんと当たっている時はあるよ。…地味なだけで」
ルシアン「よし。俺の拳を光って唸らせるぜー!」
ルシアン(あ、やべえ。勢いつけすぎたか!?)
ウンガガの攻撃を避け、カウンターにパンチを食らわせようとしたが、回避される。その攻防によってか、いつのまにかルシアンはウンガガが立つ通路の奥に来てしまった。
ルシアン(盾役になるつもりだったのに。この立ち位置だとミアとアドニスがあぶねえ)
そう焦るルシアンの視線に気づいたアドニスは意図を汲み取るように1歩、ウンガガから離れる。
アドニス(俺にあの巨大な斧が当たったら、即ミンチだろう…ここまで来た皆に迷惑をかけたくない)
ミア「ふふん。ボクの出番ですねー!」
アドニス「ぬ?」
ミア「ヘイヘイヘーイ!かかってこいや!それとも、キュートでちっちゃな妖精さんにチビってるのですか~?牛さんYO!」
ウンガガの目と鼻の先に飛び出し。突然ラップで煽りはじめる半妖精。その光景にアドニスや、他の皆も呆然とした。
アドニス(???)
ルシアン(どこで覚えたんだ…そんなこと!?」
デイビッド(アッシのせいですかね…?)
ベアトリクス(これはこれは…素敵だね)
ウンガガ「…」
ジロリと睨むミノタウロスの王。だが、ミアは欠片も動じないまま。にやりとした笑みを浮かべている。
アドニス(ミア…その勇気は凄い。凄いが…危険すぎる。……俺は…)
少年は咄嗟に前へ進み。ミアを横道へ押し出した。
ミア「はえ?」
アドニス(…これでいい。それに銃ではなく暗黒の矢を使おう。少しは命中率が下がるかもしれない)
ベアトリクス「アドニスくん」
アドニス「…?」
優しい呼びかけと共に、そっと肩に触れるベアトリクスの手。引き寄せるように少し引っ張る意味を察し。アドニスはベアトリクスの後ろへと、入れ替わった。
アドニス「すまない」
ベアトリクス「かっこよかったよ。ミアくんのために頑張る姿は」
アドニス「……ありがとう」
前方から雷撃、暗黒、幻影、鉛玉。そして、後方の拳。その猛攻に挟まれたウンガガは、なすすべもなく。だが、王となったミノタウロス。恐怖に怯えることもなく、孤軍奮闘に大斧を振るう。その最後まで———
ルシアンはミノタウロスの王『ウンガガ』を殴って殺した。
アドニス「よくやったな、ルシアン!素晴らしい牛肉になったぞ」
ルシアン「あ、ああ」(本当に食べる気なんだ…)
ベアトリクス「私の雷で旨味が良くなっているかもね。ふふっ」
デイビッド「にーく!にーく!」
ミア「おにくですー!」
ルシアン(まあ、楽しそうだし。…人肉よりはマシか)「よーし!いっぱい食うぞ~」
アドニス「マンドレイクと胞子きのこも焼くから、それもちゃんと食べろよ」
ルシアン「それはなんかやだ」
途中セーブ無しで、ミノタウロスの巣に挑戦すると、なかなかの難易度だ。ゲーム内の9月頃だと3回ほど負けたな(アドニスがミンチになって)。想定してない行動をするミア(距離設定3にしているんだけどなぁ…?)を生存させる点も大変さを上げているけど。まあ、個人的に楽しんでいる。ほどよいスリルはスパイスのように美味しいと思うのだ。
奇妙な屋敷はなにこれ!?となりましたね。本当にどうしてくれようかなー…。RPが無かったら、防衛者連れて、核爆弾で吹っ飛ばすんだけどな。
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