クレイモア吸血鬼の旅行記120 うみみゃあ狂詩曲

elonaプレイ日記踊れ月光『アネモネ』


吸血鬼の城の地下室には恐ろしい拷問器具と怪しげな実験器具が並び…そして、不似合いな洒落た高級ソファーが置かれていた。その上で、吸血鬼は真紅のマントに包まっている。床へ白い手をぶら下げた格好で。その指先には酒瓶が転がっている。中身は空っぽだ。そんな空き瓶がいくつも落ちていた。まるで一度に全て飲み干したかのように見えるが…。アネモネは数日間、この部屋で寝起きしては作業をし。その合間に飲酒し。その辺に捨てていたのだ。しかし、その量はエリザが見たら怒り出すほどの多さだ。

アネモネ「…」
薄っすらと目蓋は開き。紫色の瞳が覗いていた。実のところ、少し前から目は覚めていた。だが、起きる気が起こらず。ベッド代わりにしていたソファーで横になっていたのだ。

アネモネ(後少しで終えるというのに。気分が悪い……あのような夢を見るとは)
夢は記憶の整理。昔どこかで見た光景が混ざって出てきた…と思うには。それは奇妙なものだった。マリーは本来の性別で、随分と姿が変わっていた。金の髪は昔のように短いが、肌には年月を感じさせる皺が刻まれている。怪我をしているのか、血が滲んでいる包帯を巻いており。ベッドに横たわっている。夢の中の吸血鬼は何か話をしていたが…覚えていない。しかし、予想はつく。マリーは困ったように笑っていたのだから。

アネモネ(我ながら執念深いことだ……うむ。寝直して忘れよう)
そう思い、アネモネは目蓋を閉じる。しかし、一度起きた頭というのはなかなか眠れないもので。先刻の夢の内容や、様々な思考が巡る。

アネモネ(…動いた方が良いな。起きるか)

 



アネモネ「ふふ、アーティファクトを3種合成し…魔法威力835が出来たのであーる!ははははははっ!!毒恐怖混乱無効に、いくつかのステータスが上がる!素晴らしい装備だ。これは我の装備にするぞ。料理スキル低下が玉の傷だが…我の腕前には大した問題ではないな」



アネモネ「そして、ルルウィの憑依がエンチャントされた羽を合成する。我の装備として使おうと考えていたが、麗しい女神のように戦うエリザの姿を眺める方が素晴らしいと思えてな。エリザの耐性を埋める構成にしたぞ」

エリザ「独り言を言っているかと思えば…急になんですの。まあ、ありがたく受け取りますけど」

アネモネ「そうかそうか。では、身に付けたらくるっと回ってくれ」

エリザ「はい?」

アネモネ「知らぬのか?おニューの装備を着たら、乙女は回転するのだぞ。ふわりとスカートを広げてな」

エリザ「…回転蹴りなら、いくらでもしてやりますわよ」

アネモネ「なるほど。それなら、よく見え…ぬぐわああああああああああっ!!」
吸血鬼はいつもどおり頬を引っ張られた。

 


アネモネ「やれやれ…ひどい目に遭ったのである」

マリー「…自業自得だと思うが」

アネモネ「…」
先ほどの出来事を遠巻きに見ていたらしいマリーの登場に、アネモネはジッとその顔を見つめた。忘れかけた…いや、忘れようとした夢で見た年老いたマリーが思い浮かび。現在の姿とかつて騎士だった青年の姿とぼんやりと重なる。…やはり。妙に納得する。あれはマリーだったと。

マリー「…」
気まずい沈黙に、マリーは何を言おうか迷ってしまった。ここ最近のアネモネの言動に、どう踏み込んだら良いのか。ほんの少しだけ、ためらってしまったのだ。その僅かな遅れに、口を開いたのはアネモネだった。

アネモネ「…ああ、そうだ。お前に渡す物があった」


アネモネ「見よ。ホーリーヴェル発動に混乱麻痺無効がエンチャントされたセブンリーグブーツだ。お前にぴったりであろう」

マリー「凄い…。これを、私に?ものすごく高かったんじゃないか?」

アネモネ「BMで購入したものではないぞ。裁縫で作った。*笹の節句*は良い装備が出やすくなるからな」

マリー「ありがとう、アネモネ。これで全力で戦える」

アネモネ「…だからといって、あまり無茶するなよ」

マリー「大丈夫さ。私は健康と頑丈さに自信があるからな」

アネモネ「その阿呆さは死にかけても変わらなそうだな」

マリー「気難しいよりマシだろう」

アネモネ「はは」

 


ビリビリと稼働する遺伝子合成機。高LVモンスターと合成し。マリーとドラクルのLVは150まで上がり。エリザとジルのLVも140まで上がった。

アネモネ「さて、もうひとつの準備として。我らのLVを上げたぞ。これで速度が上がり、HPMPも上昇するぞ。…ぬ?格闘の命中率1527%とな?」

ドラクル「手に武器を装備してないと、このような表示になるようですね」

アネモネ「なるほどな。それにしても、この数値は…素手だと命中率が上がるのか?」
アネモネは大剣を外した。命中率401%から792%になった。

マリー「本当に素手だと命中が上がるな」
マリーは大斧を外した。命中率815%から1860%になった。

アネモネ「ふ…我には必中の魔法があるからな。剣は盾のようなものだ」
*LV41以上の職業クレイモアは物理攻撃を受けた時に1/4の確率で受けるダメージを装備武器で軽減する。

 

~大聖堂~

女神が降臨する。幸運のエヘカトル…ジュア、ルルウィも美しい女神だったが、エヘカトルは正に女神という言葉が相応しい美貌であった。まっすぐに伸びた長い金髪。晴れの海のような、抜けるように明るい青色の瞳。暖かな白色の、雄大な美しい翼を持ち。清楚で慎みと気品に満ちた優美な服を纏う身体は、魅力的な豊満だ。

エヘカトル「…みゃ?」
しかし幸運の女神から発せられる言葉は、まるで幼い子供のようだ。かつて知性的で情熱的な女性だったらしいが…一体、彼女の身に何が起こったのか?それを知る定命の者はいない。

エヘカトル「呼んだ?呼んだ?呼んだの?」

アネモネ「うむ、呼んだぞ。幸運のエヘカトルよ」

エヘカトル「わ~嬉しいな!遊んでくれるの?くれるの?」

アネモネ「そうだぞ~。死まで戯れるとしよう」

エヘカトル「わーい!約束だよ!だよ!泣いちゃっても、死ぬまでやめないよ!」

エリザ(微笑ましいようで、怖い会話をしていますわ…)



アネモネ「さあ、始めるぞ。我が下僕共」

エリザ「待ってちょうだい。私たち、強化ポーションをまだ渡されてないのですけど?」

アネモネ「必要ないと思ってな。今までの神との戦いは回数を重ねていく内に、撃破までの時間が速くなっているだろう。そなたたちは強化ポーションを準備する期間…ハーブを食べ。サンドバッグを殴っていた。初めの神戦の時と比べて強くなっている。我はそう思ったのだ」

エリザ「時止めも禁止にしているのに、随分と強気ですわね…」

アネモネ「勝てるさ。我はそう信じておる」

エリザ「…そう言われるのは、悪い気はしませんわね」

ドラクル「お嬢様がそうおっしゃるなら、やってみせましょう」

ジル「僕もマスターのために勝利を捧げるのですですー!」

マリー「お前の信頼に答えてみせるよ」


吸血鬼の言うとおり。圧倒的な力を見せるのは下僕たちであった。恐ろしいほどの速さで、女神のHPを削っていく。特に大きなダメージを与えているのは、クロスボウにエンチャントされた混沌の渦の発動だ。

アネモネ(やはり魔法は強力なものだな。他の者の装備にも攻撃魔法がエンチャントされた物を……いや、戦いはこれで終わり…終わりなのだ)
己を納得させるように、心の中でそう呟いていると…弱々しい子猫のような鳴き声が聞こえた。

エヘカトル「みゃ…みゃ…ぁ…」



エヘカトル「うみみゃぁ!


それは全てを滅ぼす。9999999の最恐の一撃。ただただ契約の発動を祈るだけだ。

マリー「話に聞いていたが、とんでもない威力だな…」

アネモネ「幸運の女神らしい運試しであるな。契約が発動するか、しないか。完全に運任せである」
そう言いながら、吸血鬼は復活の書を読み。ジルを蘇らせた。対象の一覧にダンジョン住民が並んでいたが…まあ、3日後に復活するだろう。

ジル「うう…僕だけミンチになってしまうなんて。あのクソ猫…あ、いえ。マスターに申し訳ないですです」

アネモネ「気にするな。そういう時もある。我は4回ほど、うみみゃぁ!でミンチになったからな」

ジル「えっと…そんなこと起こりましたっけ?」

アネモネ「無かったことに(リロード)したからな。ははははは」

 

うみみゃぁ!の衝撃があったが、すぐに立て直し。吸血鬼たちは再び猛攻する、恐怖状態になったエヘカトルは逃げ出し。壁を引っ掻いて破壊するが、壁は分厚く。外には出られなかった。その間に接近したマリーの大斧が振り落とされ———

*ブシュッ* マリーは《幸運のエヘカトル》の首をちょんぎり 殺した。

アネモネ「ふふふ…ふはーははははははっ!よくやった!これで、全ての神をミンチにしたのだ。誇るべき、偉業を為したのだ」

ジル「うぇひひひ…。全部全部、マスターのおかげですよ。ずっと僕たちを育ててくれたのですです」

マリー「…。全て、なのか?」

アネモネ「なに?」

マリー「お前は…幸運の女神には”中の神”が居る。と、そう話してなかったか?」

アネモネ「…そんな話をしたか。いや、酒の肴に話したか」

エリザ「とんでもなく強いって噂ですけど。ここまで来たなら挑んでみたいですわね」

アネモネ「エリザは我より好戦的だなぁ」

エリザ「今まで、ワガママに闘争を求めていたあなたには言われたくないですわ」

アネモネ「……そう、そうだったな。わかった。やるとしよう。中の神との戦いをな」

 


アネモネ「まずは再びエヘカトルを降臨させ」


アネモネ「クリムエール+128をぶつける」

エヘカトル「うみゃ~?…みゃ……まいあひ~♪あいあふ~♪」
幸運の女神はご機嫌に唄い出し。ふらりと左右に揺れながら、懐から酒やポーションを次々と飲みはじめる。吸血鬼は静かに様子を眺めるだけだ。その時の訪れを待つように。

エヘカトル「うみゃっ!?」
《幸運の女神エヘカトル》は吐いた。《幸運の女神》は拒食症になった。9999のダメージを受けた。

アネモネ「うむ、成功だな。どうやらアルコール度を凝縮した酒を飲ませると、呪い酒と似たような現象が起こるらしい」

エリザ「こうして見ると酷い方法ですわね」

アネモネ「まったくだ。美しさがない。だから、我はこの方法はやりたくなかったが…。中の神との戦いに万全な状態で挑むには。直前までエヘカトルと戦っているのは不利だからな。仕方あるまい」

 

後少しでエヘカトルが餓死するタイミングで、吸血鬼は皆に強化ポーションを渡し。契約の魔法を唱え、鼓舞をする。まだかまだかと緊張した空気が流れ…その時が来た。

《幸運のエヘカトル》は死体を食べ終えた。《幸運のエヘカトル》は吐いた。《幸運のエヘカトル》は餓死した。

エヘカトル「…ぅっぅぅ…っぅぅっぅううううみみゃぁ!!!
激しい咆哮、そして彼女の憤怒を具現したような火柱が一瞬だけ、赤々と燃え上った。《エヘカトルの中の神》。その外見はエヘカトルと変わらないが、その強さは格段も上の上だ。一説によれば、地上を破壊しないために制限されている本体の力のギリギリまで引き出した状態らしい。

アネモネ「ふはははははははははっ!はじまったぞ。泣いても、どこまでも追いかけてくるぞ!」

エリザ「逃げませんよ。いつもどおり全力で戦いますわ」

アネモネ「ふふ、勇ましいことだ」

 

荒ぶる女神に、エリザとマリーは勇猛果敢に接近し、武器を振るう。ドラクルは遠距離から、3本で狙い撃つ…だが、《エヘカトルの中の神》は俊敏な動きで回避していく。まるでしなやかな獣のように。これでは解禁した時止めや、クロスボウにエンチャントされた混沌の渦も発動しないだろう。そして、更に近接には不利な点があった。

《フリージアの尻尾》。命中率が-460も下がるが。首狩り、幻惑追加攻撃、轟音の波動、ナイトメア、魔力+691、そして終末が訪れる…など強力なエンチャントがあるアーティファクトだ。こんなもので殴られたら、生命力10のHPはあっという間に削られ、首を刈られてしまうだろう。

アネモネ(皆の回避と見切りスキルをもっと上げれば…命中率もなんとかしたいところだな)
現状、中の神のHPを徐々に削っているのは、必中である攻撃魔法をメインに唱えるアネモネとジルだけだ。このままミンチにされず、粘ることが出来れば…勝ちはあるかもしれない。しかし負けようが、吸血鬼はあまり残念だと思わなかった。

アネモネ(…面白い)
吸血鬼は笑みを浮かべていた。この残虐で凶悪な麗しい女神を血の海に沈めた姿を想像するだけで、興奮する。まだこんなにも強い奴がいることに喜びを感じる。…しかし。

アネモネ「…」



アネモネ「ふはははははははっ!ふはーはっはっはっ!愉快であったぞ。後で祭壇にたっぷりと魚を供えてやるぞ。エヘカトルよ!」

エヘカトル「わぁい!たらばかにぃ!」
幸運の女神は満足したように消えた。タラバガニという奇妙な言葉を残して。

アネモネ「はて…?イルヴァに生息しているのだろうか。…まあよい。今回は我らの負けであるな。だが、いずれ。また挑むとしよう。そなたたちも納得いかぬだろう」

エリザ「当然ですわ。今度は私が首を取ってやりますわよ」

ドラクル「はい。お嬢様が望むままに」

ジル「あんなク…猫女神、僕の魔法で焦げカスのミンチにしてやりますよ!」

マリー「私も」

アネモネ「…マリー。話を、しようではないか」

マリー「…っ!」

アネモネ「どうした?話をしたいと言っていたじゃないか。先刻の戦いで疲れてしまったのか」
確かにマリーが望んでいたことだが…にこやかなアネモネから発される声音は、やけに冷たく聞こえる。漂う不穏さに、マリーは不安を感じるが。

マリー(私は…話さないと。友として、今度こそは)「ああ、私は」

エリザ「疲れるのは当たり前でしょう。中の神と戦ったのですのよ。だから…帰って休みましょう」

アネモネ「ぬ?」
エリザは素早い動作で、アネモネの腕を自分の腕を絡ませ、まるで逃がさないようにがっちりと組んだ。そして、そのまま引きずるように歩いていく。

マリー「エ、エリザ?」

エリザ「うふふ。私に任せてちょうだい!」

アネモネ「エリザ離せぬわあああああぁぁぁっ」

 


強化ポーション無しでも神をミンチにできるようになっていたとは。改めて成長を感じるな。中の神も半分以上も削っていて、善戦してましたね。命中率を上げれば、近接組の攻撃が当たるように出来るのかな…?まあ、そこまで鍛えるには時間かかるだろうし。いつか…ね。ということで…次は最終回となります。

 

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