勇者の秘密

ぷよ魔導

 君はいつもあの子しか見ていない。
 あの子の名ばかり呼ぶ。
 あまりにも苛立って、
 あの子ばかり呼ぶ声を聞きたくないと、
 君の唇を塞いだ。

「な・・何をするんだ。ラグナス!?」
 ひどく驚いた顔で、ラグナスを見るシェゾ。
 ラグナスは俯いたまま何も答えない。
「答えろ」
 シェゾはわけがわからない状況に、気味が悪いものを感じていた。
 いつもどおり顔をあわせたから、たわいもない雑談をしていただけなのに、
 急にラグナスは顔を近づけて、キスをした。
 嘘のような出来事。
 けれど起こってしまった事。
 唇に触れた、ラグナスの唇。その事実にシェゾは顔を赤く染め、混乱し、なぜそんなことをしたのか問いただす。
 けれど同時に思う。
 それで、ラグナスがどんな答えを言うんだ?
 さっきまで普通に話していて、笑っていて、友達だと思っている奴に・・どんなことを言われるんだ。
 怯えた目でラグナスを見つめるシェゾ。ラグナスは困ったように微笑んで、こう答えた。
「シェゾ。オレ・・・寝ぼけていたようだ。ごめん」
「・・・・」
 ね、寝ぼけて・・?シェゾはあきらかに嘘だと思えたが、だからといってこれ以上追及する気にはなれなかった。
「そうか・・気をつけろ」
「・・・・」

 君は素直だね。
 ひねくれているようで、本当は優しい。
 だから、君に剣を向けることにためらう。
 君は闇の魔導師。オレは勇者。
 ずっと側にいたいな、と思うけど、運命がそれを許さない。
 こんなにも君が好きで、愛しいのに、
 君は知ってしまったら苦しむだろう。
 君は優しいから、強いから、すべてを受け入れて背負うとするだろう。
 けれど、オレは嫌なんだ。
 運命に囚われて、殺しあう運命は、
 ああ、君をどこかの時空へ連れ去りたい。
 そうすれば永遠に君は死ぬことがない。
 誰のものにならない。
 オレだけの・・・。

「ラグナス。ラグナス!」
「え?えっと、なんだっけ?」
「何、ぼーっとしているんだ?今日のお前がおかしいぞ」
「変態の君に言われなくないな」
「人が気にしていることを・・・この!」
 ラグナスに掴みかかるシェゾ。
 真っ直ぐとこちらを見つめる青い目。
 まるで宝石のサファィアのようだ。
「綺麗だ・・」
「は!?」
「空が」
「空?」
 ラグナスの言葉に空を見上げるシェゾ。
 曇りひとつもない青い空。たしかに晴天という言葉がぴったりする綺麗な青空だ。
「たしかにいい天気だな。思い切り剣を振るうには気持ちよそうな日よりだな・・ラグナス、俺と付き合ってくれ」
「え!?」
 シェゾの言葉に頬を赤く染めるラグナス。
「そ、そんないきなり言われても、ここっ心の準備が・・!」
「そんなに緊張するのか?剣の練習が」
「え?・・・・なんだ。そっちか」
「なにがそっちだ。やっぱり今日のお前変だぞ」
「あはは。練習するんだろ。付き合うよ」

 まったく君は鈍感で、
 そんなところが好きでたまらないんだ。

 

2009/12/25