愛情ってなんだろう。
相手を思いやること?真剣に向きあうこと?
どっちにしろ・・・。
「だあぁぁーっ!離れろ。うっとうしい!」
シェゾはそう叫んで、背中にべったりと貼りつく文字通りの背後霊から離れようとする。
「おや?嫌ですか?」
「なにが優雅に、おや?だ!嫌に決まっているだろう!」
「私は気持ちいいのですが」
「貴様は、な!なぜ男同士でくっつきあわなければならん!気色悪いわ!」
まだ身体に絡みつく腕を掴み。引き離そうとする。
「くっ・・」
タコの足だ!!まるで吸盤でもついているように、微動だしない。
「んふふふ・・・」
「ぐおおおおっ!」
だが、男の意地、名誉のため。シェゾはルーンロードを引き離そうとしたが・・・!
「ああ、そうだ」
「のわああっ!」
急にするりと離されて、バランスを崩して倒れそうになるシェゾ。
「出かける用があったのです。・・寂しいと思いますが、では ♪」
ふわりと姿を消すルーンロード。
「・・・用?」
まだ背中には冷たい感触は残っていた。
別に奴が気になるわけではない。奴の行動が気になるだけだ。
好きとか。嫌いとか。あんな奴嫌いに決まっている。これはわけがわからない奴の行動、考えを探るための尾行だ。
「・・・・」
意識を静かに研ぎ澄ます。あの独特な粘着質な闇の気配をシェゾは探る。
尾行・・といっても、実際に後をつけることではない。ルーンロードは亡霊。生身を身体を持たない霊体だ。そんな壁をすり抜けることができれば、空すら自由に飛べる奴を普通に尾行するなど不可能だ。
「・・こっちか」
ルーンロードの気配を掴み、シェゾはその方向へ歩み出した。
ショコラ半額。ポイント2倍。
「・・・・」
可愛い店だった。
テディベアや白うさぎの小物。アンティ―クっぽい小窓から見えるカーテンもフリフリの少女趣味だ。
店から漂う甘い香り、看板から洋菓子店のようだが・・問題はそこではない。
この店から奴の気配がした。あの胡散臭くていかにもあやしい格好のおっさんがファンシ―な店の中に!?
・・・なぜか普通に入っていく姿が想像できた。ある意味奴らしい。
ショコラを買いに来たのか?半額だからか!?
チョコレート系なんて好きだったか?どっちかというと、ぷよまんとか・・お茶と一緒に食べられるものを好んでいたようだが・・・べ、別に奴の好みなどどうでもいい!
とにかく店員に聞くのが手っとり早い。
ずかずかと店の中へ入るシェゾ。
「いらっしゃ・・・」
店の方針らしいメイド服を来た店員の女性は愛想よく笑いかけて・・凍りついた。
店に入ってきた男。ひどく整った顔の美しい青年だが、その蒼い目は不機嫌そうに細められており、いっそ殺気を放っているようだ。隣の武器屋と間違えて入ってきたのではないかと思ったが、男は店内をぐるぐる見回し、真っ直ぐとこちら見据えて歩いてくる。
男はこちらの目を凝視し、言い放つ。
「おい・・お前のすべてがほしい!」
訳 →お前が知っている情報をすべて聞かせてほしい。
「ひっ・!!」
「あっ!?違う、俺はただ・・」
「店長ー!誰かー!怪しい人がぁぁ!!」
けっきょく奴があの店で何をしたのかわからなかった。
シェゾは再びルーンロードの気配を探り・・辿りついたのは・・・。
「む。シェゾではないか。どうしたのだ?」
「どうした・・だと。貴様こそ何をしている!?」
「何って・・ショコラを食べているのだ。うまいぞ」
呑気に微笑むサタン。かなり機嫌が良いみたいだ。ショコラで。単純な奴めと笑うところだが、今はどうでもいい。
「シェゾ=ウィグィィ。あなたもサタンに用があったのですか?」
不思議そうにシェゾを見つめる紅い目。その片手には湯のみ。目の前のテーブルにはぷよまんが置かれている。
ここはサタンの城の庭。主であるサタンと、シェゾの探し人であるルーンロードは陽の光が注ぐ庭でお茶会をしていた。
「何をしている!?」
「質問をしたのは私なのですが・・まぁ見てとおりです」
「なぜサタンなんだ!?」
「まるで恋人に選ばれなかった振られ男みたいなセリフですねー。生前からの知り合いなんです、たまには世間話を・・ね。ところで頭にクリームがついてますよ」
「貴様が悪い!」
「・・いきなりですね」
「貴様せいでクリームにまみれになったんだ!!責任を取れ!」
「・・・わかりました」
軽く溜息をついて、ルーンロードは椅子から立ち上がる。
細く冷たい指がシェゾの顎をとられたと思った時には、唇を重ねられていた。
「ん・・」
甘い味がすると思ったら、ショコラを口うつしに食べられていた。
「これで許してくれますか?」
「だ、誰が許すかーー!!」
シェゾは顔を真っ赤にして怒鳴る。
「・・その前によく人の庭で堂々とキスできるな。お前ら」
呆れた目でシェゾたちを見つめるサタン。
「好きでしたわけじゃない!!まぁ・・貴様なんぞには一生無理だろうがな」
「ほぉ・・それはどういう意味だとわかっているのか。変態めが」
不穏な空気を漂わせる魔王と現闇の魔導師。
口喧嘩から、殴り合いの喧嘩になるまであと数刻だろう。
ルーンロードはそう思いながら、まったく止める気がなかった。止めに入っていても疲れる。そもそも止めるという選択肢は彼の中にはなかった。
ぷよまんを一口かじり、茶を飲む。
そして、静かに微笑んだ。幸せそうに。
2010/04/16