喧嘩

 きっかけはわからない。
 ただお互い腹が立った。それだけだ。
 シェゾは呪文を唱える。右手から炎が吐きだされる。
 襲いかかる炎にルーンロードは、まったく避ける様子なく冷たく微笑を浮かべる。炎に飲み込まれる。
 激しく空に向かって燃える火柱。
 普通の人間なら丸焦げどころか消し炭になってしまうだろう。だが、シェゾは油断しない。奴は元闇の魔導師…
 かつて魔神、悪魔を従え、魔導都市ラーナを一夜にして滅ぼした、悪の大輪を咲かした大魔導師
 シェゾは次の呪文を唱える。
 予想どおり炎から氷が現れる。細く尖った氷の矢。真っ直ぐとシェゾの喉に向かって飛んでくる。
「フッ…」
 笑いもらして、シェゾは準備していた防御呪文を発動する。けれど、バリアーが現れたのは前ではなく後ろ。
 ルーンロードはシェゾの背後に立っていた。その腕は魔法の氷に包まれ、剣のように冷たく鋭く尖っている。
「詐欺師の手口だな!」
 嘲るのようにシェゾはくっくっくっと笑う。
 目の前で消える氷の矢。次の手を欺くためのフェイクだ。最初に炎に包まれたルーンロードは幻影であった。
「裏の裏はなんなのか知ってますか?」
 手を読めれたはずのルーンロードはまったく焦る様子なく、シェゾにそう問いかける。
「…表?…っ!?」
 とっさにシェゾは身体を横に動かす。頬にかすめる氷の矢。
 消えたと見えた氷の矢は時間を置いて、再び現れたのだ。
 少しでも避けるタイミングがずれたら、喉を射抜かれただろう。
「残念…んふふふ……」
「ふん。面白い…!」
 邪悪な笑みを浮かべる、闇の魔導師と先代闇の魔導師。
 互いに戦い方を熟知していた。
 直感的のように、けれど計算する冷静さがあるシェゾ。
 最初から計算し、あまり動くことがない。無駄な動きを嫌うルーンロード。
 力と若さならシェゾが上であったが、ルーンロードは狡猾さと経験がある。
 再び戦いをはじめる。
 なぎ倒される木々。散らされる花々。
 吹っ飛ばされるたまたま通りかかった人、魔物。二人のケンカはなかなか終わらないように見えたが…

「いい加減にせぬかぁぁぁぁ!!」

 雷でも落としそうな怒声。
 サタンであった。
「?」
「……」
 突然現れた魔王を不思議そう見つめる闇の魔導師ら。
「ここを荒地にする気か!ケンカに迷惑をかけるのでない!!」
「……」
 素直に小さく謝るように頷いたのはルーンロードであった。
 魔王として力を恐れてか、ただ面倒なことが嫌なだけかもしれない。
 その様子に満足そうに微笑むサタン。
 だが、
「これは俺と奴の問題だ。おっさんがでしゃばるな!」
 謝る気などサラサラないシェゾであった。
「誰がおっさんなのだ!!私はまだピチピチのミドルなのだ!!」
「フッ、ようするにおっさんだろう」
「貴様…!」
 あまり態度が悪いシェゾについには青筋を浮かべるサタン。
「どうやらお灸をすえなければならないようだな!!」
「無理して腰を痛めても知らんぞ!」
 びりびりと震える空気。魔王と闇の魔導師の力がぶつかりあう。

「……」
 ルーンロードはしばし二人の戦いを見ていたが、ふと空が青いことに気付く。
 …光が眩しい。
 晴れ晴れとした天気だ。ぽかぽかと陽気が眠りをさそうだろう。
 夜はまだ来ないだろうか。月の魔力は心地よく、生き物のようにあっという間に干からびない。
 その辺に目を回して倒れている人、魔物から魔力を吸収は…できないか。サタンが見ている。
 …どこか、静かなところで眠ろう。
 そこでやっと昼寝でもしようと結論に辿りつき、ケンカのことなど完全に忘れてしまったルーンロードはどこかへ消えていった。

その後。ハタ迷惑にケンカしつづける魔王と闇の魔導師を止めたのは栗色の髪の少女であった。

 

2010/02/20
喧嘩は多分シェゾが先に仕掛けたのでしょう。
原因は・・忘れたようです。