途切れた糸

 伸ばされた手。
 細長い指。冷たいほど白い色。
 血のように赤い唇。実際にその唇は血の赤で彩られていた。
 中性的な顔は、最後まで微笑んでいた。
「    」

 最後に何と言ったのか。
 覚えていない。いや・・認めたくなかったのだろう。
 決意したつもりでいた。
 永遠に眠らせてやると。すべてを俺に委ねて・・。

「私はずっとあなたの側にいますよ・・」
 そんなに信用できないか。

「運命というものを信じていますか」
 知るか。

「やれやれ・・不器用ですね。誰に似たのやら」
 よけいなお世話だ。

 俺は、
 闇も運命も、受け入れた。
 もうお前など必要ないと、再び引導を渡してやった。
 手のひらに滴る赤。刀身から流れてくる。
 刃の先にあるのは笑う魔導師の心臓。
 実体がないルーンロードが見せる幻だ。
 だが、肉体がなくても闇の剣の力をもってすれば霊体も傷つけることができる。
 ルーンロードは狂ったような、泣きそうな笑みを浮かべたまま、空気に溶けて消えていく。
 最後まで奴が何を言いたかったのか理解はできなかった。
 ・・もう考える必要はない。
 俺は、

「シェゾ・・!」

 背後から聞こえる声に、用意していた魔法を発動させる。
 地面に浮かぶ魔法陣。円形の中で赤々と輝く文字は羅列が古代語で炎を現す。
 円陣から現れる、炎。天を焼かんとする柱。魔王は業火に包まれたように思えた。
 シェゾは笑う。
 だが、勝利の喜びではない。
 戦いを楽しみ快楽に酔いしれた笑みだ。
「これで終わりか。バカ魔王」
「・・誰がバカだ。大バカ者め」
 灰色の空を見れば、見覚えがある竜を思わせる黒い翼。
 魔王は上空から哀れむようにシェゾを見下していた。
 諦めてしまったのだな・・。
 言葉など意味がないと理解した。
「サタン、お前のすべてをくれないか?」
 シェゾは微笑む。甘く誘惑するように、その裏で危険な毒を隠した華のように。
「面白い・・奪ってみせよ。闇の魔導師よ」
 愛でてくれよう、華が枯れるまで。

 ようやく手に入れた力。
 それに笑う。
 男は笑う。
 何を壊したか気付かずに、ただただ笑う。
 もう必要ないと、
 優しく包み込む闇すら、消し去った。
 残ったのは白い空白。
 空っぽになったもの。
 戻り道などいらない。
 求めるものは、もう。
 物語の結末のみ。

 悪魔が語った光と闇の運命のみ。

 

2010/3/9
闇の魔導師の運命に従い、自爆しようと自暴自棄になった話です。
ひとつの結末であり、正しい道。