うららかな陽気。
穏やかな風が吹く午後。
ふと、呟く。
「おなか空いた・・」
そう呟いたのは白い魔導服を着た青年。
珍しい銀髪に青い目で、なかなか美形だが・・
ぐぅぅぅぅっ~。
その青年の腹から響く音ですべてが台無しとなっていた。
ぐぅぐぐぅ~。
まるでどこかの生物の鳴き声のようだ。
「ぐっ!」
その音に引き寄せれたのか草むらから現れる黄色い生物・・カーバンクル。
「呼んでない!」
シェゾは顔を真っ赤にして怒鳴るが、カーバンクルはなにが楽しいのかシェゾの周りで踊りだす。
「消・え・ろ!」
シェゾはカーバンクルを追い払おうとしたが、
ぐううぅぅぅ~。
「うぅぅっ・・まずい。力がでねぇ・・」
ヘろへろとその場に倒れそうになるシェゾ。
「何をやっているのですか?」
そこに一人の男が現れる。
シェゾと同じ銀髪で赤い目の、なにやら胡散臭い雰囲気を纏った男。名前はルーンロード。
「見てのとおりだ・・」
「・・・?・・ああ、カーバンクルと踊っているのですね」
「どこをどう見たらそうなる!?」
「おちゃめな冗談ですよ。可哀そうなシェゾにご飯を作って差し上げようと思いまして」
「余計なお世話だ!貴様が作るものなんて・・!」
ぐぅううぅぅぅっ~!!
「ぐぅぐぐ♪」
踊るカーバンクル。
何か言いかけて口を開いたままのシェゾ。
「・・・・」
「・・・・」
「ぐぅ♪」
「カレーにしましょうか」
「・・・・ああ」
何をそんなにはりきっているのか・・
幽霊くせにきっちりとエプロンを着ていて、うっとしいほど長い髪も三つ編みに纏めている。
200歳以上のおっさんのくせに・・フリフリエプロンを着やがって、恥ずかしくないのかよ。
そんなことを思いながら、楽しそうにカレーの材料を切っているルーンロードの姿を見つめるシェゾ。
「ええと・・カレーにはバナナが入りましたっけ・・?」
「入らん!変なものを入れるな。なんだその黒イモリは!!?」
「見てのとおり強力な精・・」
「それ以上言うな!!フツーの材料だけ入れろ!」
「でも、怒鳴ってばかりですから・・スケルトンTの骨ぐらいは・・・」
「や・め・ろ!」
それではカレーではなく、ただのカレー味のあやしい薬だ。
「我がままですねぇ・・あなたのために一工夫してるだけですのに」
「毒薬の間違いでは・・う・・・」
突然世界が回る。
そういえば・・三日も食べてなかった。
最後に食べたものはなんだっけ・・・。
意識が遠くなり、そして・・・。
あの香りする。
香ばしいあの匂い。
ああ、涎が・・・
「はっ!」
飛び起きるシェゾ。
「カレー・・?」
横を見ると、白いご飯に盛られたカレーがあった。
温かい。
まるでシェゾが起きるタイミングを見計らったように用意されたようだ。
「・・・あいつは?」
カレーを作ったはずのルーンロードの姿は無かった。
「ぐぅ」
シェゾの問いに答えるように鳴くカーバンクル。
「ん?なんだ?」
「ぐぐぅぐ」
「楽しかった・・まるで別れの挨拶みたいなこと・・」
「ぐぐぐっ」
「誰が誰の父だ。・・まぁいい、今度会ったら礼くらいは言ってやるか」
「ぐー!」
「こらー俺のカレーだ!食うな!」
これはあいつが俺のために作ってくれた、俺だけのカレーなんだから。
2010/1/27
タイトルどおり、たまにはこんな話です。
シェゾがおなかを空かしたら、先代がカレーを持って現れます。