嫌いな理由

ぷよ魔導

 眠っている・・?
 碧い草原の上に散る銀色の髪。
 閉じられた白い目蓋。
 深緑のローブの上に黒い外套を着た、魔導師らしい格好をした男。
 かつて、賢者の都ラーナを滅ぼし、罪もない多くの人間を虐殺・・という悪の華を咲かした闇の魔導師。
 名はルーンロード。
 勇者によって倒された後もこの世に執着し、
 次代の後継者を新しい自身の身体として、その魂を殺そうとした邪悪なる亡霊。
「のくせに、こんな場所で寝てやがる・・・」
 かつて、自分を殺そうした亡霊を見つめながらシェゾはそう呟く。
 穏やかな風になびく銀色の髪。
 深く蒼い瞳。
 雪のような白い肌。
 均整をとれた身体に纏うのは、異端の白い魔導服。
 シェゾ=ウィグィィ。
 ルーンロードいわくその名は神々を汚す華やかなる者、という意味だと言う。
 この世界に生まれた瞬間から、あなたは闇の魔導師になる運命だったのです。と奴は笑っていた。
 運命なんて、陳腐な言葉だ。
 運命とか、天才とか、そんなの悲観し諦めた人間が言い訳のために作った言葉だ。
 現実から逃げるための・・。
「・・・・ふ」
 なら、俺も逃げるだけかもしれないな。
 奴を倒し、闇の魔導師となったあの日。

「運命・・?なら、俺は運命を受け入れよう。くくく・・・闇の魔導師として、この世に悪の華を咲かしてくれよう・・ははははっ。くく、ははははっ」

 あの日、今まで生きてきた世界を捨てた。
 いや、逃げたのだろう。自分は、
 迷宮の暗い闇。
 どんな理由であれ、傷つけ命を奪う剣を握り、
 目の前に立ちふさぐモンスターを倒して、倒して、
 しかばねの道を作り、
 最後は・・・奴に・・・・。

「お前などいなければ・・」
 無意識に吐き出される言葉。
 気がつけば手のひらの中に召喚していた闇の剣。
「・・・・」
 亡霊であろうが、闇の剣の力があれば傷つけることができるだろう。
 この世から消滅させることができるだろう。
 剣を握った腕を、高々と上へあげる。
「お前など・・」
 もう一度言おうして、言葉が止まる。
「・・・・」
 手のひらから、闇の剣が消える。
「殺さないのですか?」
 開かれる目蓋。
 ルビーのような赤い目は、シェゾを見つめる。
「いなくなってほしかったでしょう?」
 そう言って、微笑む。
 その赤い目はまったく笑ってなくて、冷たいままで、
 どこかひどく寂しそうで、
 暗い狂気を内に秘めたままだ。
「不意打ちなど、卑怯者がすることだ」
「卑怯ですか?まったくあなたは素直で愚かですね。まるで闇の魔導師ではなく勇者かのようですねぇ」
 笑みを浮かべたままだったが、<勇者>という言葉に、少し不愉快そうに声が低くなる。
「俺は勇者ではない。あいつとは違う」
「・・・・」
「だからといって、貴様とも違う。俺は俺という悪の華を咲かす。闇の魔導師として、その名をこの世に広めよう。このシェゾ=ウィグィィ・・神々を汚す華やかなる者の名を、な。貴様は早く冥界でも、地獄にでも帰れ!」
「んふふふ。選んだかいありますねぇ・・さすが・・まぁ私の好みで選んだのですが」
「・・・おい。今何て言った!?」
「さて、ひなたぼっこを楽しんだことだし、冥界に逝ってきます」
「今、自分の趣味で俺を選んだと言っただろう!はぐらかすな!」
「はいはい。好き、ですよ・・」
「なっ!?」
 突然の告白(?)呆気にとられるシェゾ。
 その隙をついて、ルーンロードはシェゾの唇に自身の唇を重ねる。
「好き、ですよ。シェゾ=ウィグィィ・・」
 小さく、安心させるようにもう一度囁く。
「・・・・」
 小さく小さく。
 静かな声で、
 もう一度。
「あなたの、銀の髪と蒼い目と・・闇の力をね・・・」
 選んだ理由を、

「だから、嫌いだ」
 一度も、本当に俺を見てくれない。

 

2009/12/23
先代がシェゾに執着する理由と、シェゾが先代を嫌いだと言う理由、な話です