母と子

 薄汚れた枕に散る艶やかな金髪。
 シーツの下からわかるほどの美しい曲線。それだけで美しい女性だと予感させる。
 けれど、その顔は……醜い化け物だった。
 顔面を覆う赤い鱗。まるで蛇のような人とは違う骨格。
 かつてスミレ色だった瞳はギョロリとした獣の目となっていた。
「旅人さん…!お母さんが…お話があるって…」
 赤い髪の少女は今にも泣きそうな…けど、どこか期待した目で私を見つめる。
 言葉に出されなくてもわかるほど、母親を助けてほしい…!と、私に希望を抱いているのだろう。
 無理だよ、お嬢さん…と言おうとしたけれど、私は少女の頭を優しく撫でただけだった。
「旅人さんとお話をしているから、外で遊んでらっしゃい。パエル」
 顔が変異する前と変わらない優しいリリィの声。
 母親の言葉に少し迷いながらパエルは外へ出ていった。
 遠ざかる娘の姿をリリィは見つめていた。愛しげに悲しそうに。
 小さくリリィの唇が動く。
 あまりにも小さい声で、呟かれた言葉はよく聞こえなかったけれど。
 どんな言葉なのか、私にはわかってしまっている。
「旅人さん…お願いがあります。私を殺してください」
 そして、この言葉もね。
 エーテル病で容貌が変わっただけなら、病が蔓延している世間ではそこまで嫌悪される対象ではない。
 けれど、彼女は普通とは明らかに違う。
 今まで見たことがない症状。薬を飲んでもすぐ発病する。
 薬を飲むことによって悪化しているように見える。
 それはエーテル病とは違う……なんなのかわからない。人はわからないものを恐れる。
 いくら薬を飲んでも元に戻らない顔。いずれ村人にバレるだろう。
 リリィは今殺されなくても、異端を憎む人々に殺されるだろう。けど、それは娘まで巻き込むことになる。
 正体不明の病にかかった女の子供。ずっと同じ家で暮らしていた人間。
 母と同じ病にかかる可能性は高いと、人は思うだろう。
 私を見る瞳は化け物の目だったけど、娘だけは助けたいという母の悲痛な願いがこもっていた。
 私にできること…それは。

 

 ………
 …………
 扉を開けた少女が見たものは…白いベッドに散った赤い花だった。
 旅人は「いくらでも恨めばいいと」と囁いて、立ち去った。
 開いた扉から白い雪が降り積もる。
 赤い髪の少女は泣きじゃくりながら、旅人への呪いの言葉を吐いていた。

 

 

 

 

 本当に読んでしまうのか?
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 まあ…私が作った薬だからね。
 メシューラ菌で作った薬。
 過去の事実を知らない者たちはエーテルが原因で変異が起こっていると勘違いしているが、本当はメシューラ菌が生物を凶悪に変異させている。
 エーテルの風はメシューラ殺す抗体だ。
 けど、私はメシューラによる変異は生物の進化だと考えている。
 ただ急激すぎて身体が拒絶反応を起こしているだけだ。
 もっと緩やかに、時間をかければ、人類をより強靭に不死身に進化させる薬にできると考えた。
 リリィはその実験体だった。
 弱っていくばかりで失敗だったけれど。
 返り血で手帳が汚れてしまった。新しいのを買わないとな。

 

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