クレイモア吸血鬼の旅行記117 癒しと風

elonaプレイ日記踊れ月光『アネモネ』



アネモネ「うぅん…うう……」
緻密に装飾された豪華な王様ベッドから聞こえる呻き声。乱れたシーツから覗く幼い少女の顔は苦悶に歪んでおり。外さずにいる深紅の石が付いたペンダントの細い鎖が白い首に絡みついていた。ふと目蓋が開き、紫の瞳はしばしぼんやりと天蓋を見つめる。

アネモネ「はぁ…はぁ……夢か。……なんという悪夢だ。あの時のドラクルがメイドに……」
まだ脳裏に妙齢な女性となったドラクルの残像が浮かぶ。忘れようとアネモネは左右に軽く頭を振った。

アネモネ(美人だったな……だが、あやつだとわかっていると嬉しくないな。…あのような夢を見るとは)
起きたばかりだというのにひどく疲れた気分だ。太陽が昇り始めた頃の薄闇だが…2度寝でもしてしようか?…だが、浅い眠りでまた変な夢を見るかもしれない。気だるげに寝返りをすると、アネモネの目に癒しのジュアの抱き枕が映った。ふわふわした緑のロングヘアー、触り心地を重視した丸いボディ。シンプルだが、丁寧に縫われた服の中は…ご想像に任せよう。抱き枕というより、デフォルメされたぬいぐるみと言うのが正しいかもしれない。

アネモネ(…癒されるか)
吸血鬼は抱き枕へ手を伸ばし…ぽんっと柔らかなジュアの尻を叩いて、ベッドから降りた。

アネモネ(本人にな)

 



ジュア「あ、その…べ、別に呼ばれたから来たんじゃないからね!」

マリー「…っ!?なぜ女神様が…?」
マリーは驚愕した。目の前で頑張ってツンデレのような挨拶する女性は…癒しの女神だ。数ヵ月前に吸血鬼たちによってミンチにされたはずだが…つい先ほど、突然と自宅の食堂に現れたのだ。

アネモネ「ふふっ。イルヴァの神々は願いがあるかぎり、何度でも呼ぶことが出来るのだ。同時にジュアを2体も3体も呼ぶことが出来るぞ!願う限り、あらゆる場所をジュアで満たすことが出来るのだ!」

マリー「何を言っているんだ…?」

ジュア「たまにいるんだよね…そういう定命の者……はぁ」

ドラクル「苦労されているのですね。温かい紅茶をどうぞ…そして、私が作ったクッキーも良かったら頂いてください」
白磁のティーカップに注がれる良い香りがする紅茶…そして、一見焦げているように見える黒っぽいクッキー。黒い粒がいくつか付いている。…漂うカカオの匂いに。チョコレートクッキーだとジュアは気づいた。

ジュア「わぁ…♪」*もぐもぐ…もぐもぐもぐもぐもぐ*
どんどん消失するクッキー。だが、老紳士は用意していたのか次から次と新しいクッキーを追加していく。

ジル(…わんこクッキー?)

エリザ「…あの。どうしてジュア様を召喚しましたの?」

アネモネ「ああ、そうだそうだ。本題をまだ言ってなかったな。ジュアにはルルウィと仲睦まじく、一緒になってほしいと思ったのだ」

ジュア「はへぇっ!?」
癒しの女神は盛大に紅茶を吹いた。

 


時に激しく、時に穏やかに吹く。気ままな風と共に現れる美しい女神。まっすぐな黒髪、宵明けの深く蒼い瞳。非常に美しい均等の取れた肢体を一切隠すことなく。碧みがかかった透明感のある大きな翼を堂々と広げている。何も拘束されることない自由な彼女を人々はこう呼ぶ、風のルルウィと。

ルルウィ「アタシを呼びつけるなんて、生意気な子猫ちゃんね。…それなりの覚悟はあるでしょうね」

ジュア「…」

ルルウィ「で。なんでアンタまでいるの?」

ジュア「そ、それはそのぉ…私とつつつつきあって…」

ルルウィ「は…?なにトチ狂ったイツパロトルみたいなことを言ってるの。アンタ、大丈夫…?」

ジュア「あ、あ、その…!そういう意味じゃなくて~~~」

アネモネ「我から話そう。ルルウィ、ジュアよ…同時にお相手してほしいのだ。激しくも狂おしい夏の夢のように」

エリザ「あなた…ふざけた言い方をしてないで。き・ち・んと話してくださる?」
少女は優しい笑顔を浮かべながら、首狩りがエンチャントされた忍刀を吸血鬼に向けた。

アネモネ「うぬ!話そう。ジュアと共に我らと戦ってほしいのだ」

ルルウィ「アラ…随分とナメた口を利く子猫ちゃんね。神であるアタシとジュアをミンチにできる自信があるってことね。ただの傲慢ではないことを祈るわ」

ジュア(私はもうミンチにされているけどね)

アネモネ「あるぞ。我には素晴らしい下僕共と…」



アネモネ「我が錬金術によって、たっぷりと凝縮された強化ポーションがあるのだ!ふはははははははははははっ!」

エリザ「あなたは相変わらず2回も失耐性ポーション+64を外すノーコンですけどね」

アネモネ「ふっ。流石、神だ…我の投擲を避けてしまうとは」

エリザ「この前も同じことを聞いた気がするのですけど?」

アネモネ「うむ。言っていたぞ」

エリザ「認めるのね…」



アネモネ「ははははっ!我はここから応戦するぞ!」

エリザ「確かにあなたがミンチになったら即終了ですけど…随分と離れた場所に移動しましたわね」

アネモネ「ほう。エリザは風の女神に攻め落とされ、NTRされる我を見たいと?」

エリザ「いい加減にしないと…私があなたを昇天させてやりますわよ。首を天高く飛ばして」

アネモネ「ひえっ!?」

ルルウィ(なかなか素養がありそうね)

 


時が止まった———
時止め弾が命中し。発動したのだ。停止したモノクロ空間で、黒い燕尾服と黒い長髪が優雅になびいていた。骸骨の笑い『ドラクル』。アネモネが与えた異名に相応しく微笑みを浮かべている老紳士は、クロスボウを構え。彫像のように止まった女神たちへ連射していく…!



ジュア「いったっ!?いつのまに、こんな傷が…」

ルルウィ「ふぅん…面白いじゃない」


アネモネ(…ふむ。ルルウィの罵倒で朦朧状態になる可能性があるな。攻撃できる間に攻撃できるよう、弾補充しておくか)
そう思考したアネモネは地雷を設置し。マニの分解術を発動させるために、罠解除しようとしたが…


時が止まった———

アネモネ(ぬ?)


時が止まった———

アネモネ(ぬぬっ?)
時が止まって止まり続ける…!そしてドラクルは止まらない。容赦なくクロスボウの矢を撃ち込み。あっという間に女神たちは満身創痍な姿へ変わり果てていった…。

アネモネ(…絶好調であるな)

ドラクル「ふふっ」

 



ジュア「はわわ…」(と、とにかく回復しないと)
《癒しのジュア》は魔法を詠唱した。《風のルルウィ》は完全に回復した。

ルルウィ「全然”完全”じゃないんだけど」

ジュア「ご、ごめんなさい~」

ルルウィ「フン…お礼は後でたっぷりしてあげるわ。ジュア」

ジュア「はへぇ!?」
ふわふわしたジュアの羽耳にそっと甘く囁いた後、ルルウィはドラクルへ鋭い視線を向ける。女神の蒼い瞳に宿るのは嫌悪だ。

ルルウィ(顔は笑ってるくせに、感情が見えない男ね…。気に食わないわ)
ふと、何を考えているのかわからない無表情の男が思い浮かび。ますます不機嫌に目を細めた風の女神はドラクルに狙いを定めて弓を引き、まるで豪雨のような複数の矢を放つ…!だが、風が矢の弾道を逸らす。老紳士はルルウィの信者なのだ。

ルルウィ(アタシの加護か…元はアタシの力、無効化することは出来るけど…。そんなの、アタシのプライドが許さないわ)
風の女神は誇り高く。威風堂々としていた。…最後まで。


*ブシュ*ドラクルは《風のルルウィ》の首をちょんぎり 殺した。

ジュア「あ、あ…あああ…」
残された癒しの女神は怯えた声を上げ。か弱い手で強く握っている《ホーリーランス》が無ければ、今にもフラフラと倒れそうな様子だ。そんなジュアにドラクルは穏やかに声をかける。

ドラクル「お帰りになりますか?」

ジュア「ば、ばかにしないで!ここから形勢逆転しちゃう…かもしれないから!」

ドラクル「はい。頑張ってください」


ボールが《癒しのジュア》に命中し 殺した。

ジュア(やっぱりダメだったよ…)


マリー「…」

ジル「すっごーいですです!流石、ドラクル先輩ですです!」

アネモネ「…ここまで圧勝するとはな。我も驚きであるぞ」

ドラクル「いいえ、時止めで目立っていますが。お嬢様と皆さんのお力があってこそですよ」

ジル「僕も時止めで容赦なく魔法をバンバン撃ち込みたいですです~」

エリザ「時止めはともかく。私もオリジナル《ウィンドボウ》を試したいですわね」

アネモネ「次の戦いに心躍る下僕共の気持ちはわかるが、今回はここまでだ。さあ、帰るぞ。我特製のカレーが待ってるぞ」

 

思っていたより苦戦しなかったな。罵倒&ルルウィの加護のルルウィ様と沈黙の霧&回復持ちのジュア様で、大変だろうなと思ったのだが…。時止めが強すぎるな。

 



アネモネ「…」
賑やかな祭りが終わった後にあるのは誰もいなくなった静寂だ。こっそり戻ってきた吸血鬼は思い耽るようにステンドグラスの前に立っていた。色鮮やかな光が照らす場所を避けるように、影の中に佇み。持っていたワインボトルのコルクを抜き、直接に瓶に口を付けようとし…。

マリー「…お前にしては気取ってない飲み方だな」

アネモネ「以前、秘蔵の酒を雑に飲み干した阿呆ほどではない」

マリー「それは本当にすまなかった。…それで、私も一緒に飲んでいいかな」

アネモネ「ああ。飲むと良い。我が血を。我が身体を」
そう囁いた吸血鬼はバーベキューセットで肉の盛り合わせを作り。四次元ポケットから取り出したグラスへワインボトルを傾ける。流れる液体は暮れてきた陽の光に照らされ、より赤く、深い赤色で、まるで血液のようだ。

マリー「…悪趣味だぞ」

アネモネ「そうか。嫌と言うなら、我1人で楽しむとしよう」

マリー「食べるっ!」


壮麗な絨毯の上に乱雑に置かれる酒瓶。そして、食欲をそそる匂いが漂う、沢山の肉が乗った大皿。神聖なる場所で開かれる酒宴の中心で座っているのはアネモネとマリーだ。

マリー「もぐもぐっ…もぐっ!」

アネモネ「…」

マリー「ごくごくっ…ぷはーっ美味い!…っと、私ばかり食べているじゃないか」

アネモネ「気にするな。我は飲みたい気分でな。食欲はあまり無い。それにお前が美味しそうに食べている顔を眺めるのも面白い」

マリー「犬を愛でるように?」

アネモネ「わかってるじゃないか」

マリー「お前とは付き合いが長いからな。…何か考え込んでいる様子だったが、どうしたんだ?」

アネモネ「別に…大したことではない。あまりにもドラクルが…時止めが強力すぎてな。次の神との戦いはどう趣向を凝らすべきか。そんなことを考えていただけだ」

マリー「…」
大丈夫だと安心させるように微笑む吸血鬼の姿に、マリーの記憶にある幻影が重なる。「あまり心配するな、お前にはやることがあるだろう。私は…少し時間が必要なだけだ」そう言っていた人間だった頃の友の姿が浮かんで消えた。

マリー(あの時、私は自分のことを優先してしまったんだ…)「…なら、私だけで神と戦わせてくれないか」

アネモネ「なぬ?」

 

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